2010年06月04日更新

#483 『告白』


告白

『告白』

6/5より全国にて
配給会社:東宝
(C)2010「告白」製作委員会




4歳の一人娘を失った女教師の森口悠子は、終業式後のホームルームで、
「娘は死にました。でも事故死ではありません。
このクラスの生徒2人に殺されたのです」と衝撃の告白をする。


森口悠子は少年法で守られた犯人たちに、想像を絶する処罰を与え、
復讐を開始するが…。


『下妻物語』、『嫌われ松子の一生』
『パコと魔法の絵本』を手掛けてきた中島哲也監督が、
松たか子を主演に迎え、湊かなえの同名小説を映画化。


いつものドギツイ色彩を押さえ、
白で飛ばしたような淡い映像が美しいのだが、
固く冷たい印象を与え作品のトーンを決めている。


娘を殺されたシングルマザーの教師。
ピュアさと残酷さを持ち合わせた37人の生徒たち。
過保護すぎる母親。
熱血過ぎてウザイ新人教師。


様々な登場人物たちの虚実入り混じった“告白”によって、
物語が進行。


告白


犯人探しのミステリーかと思いきや、
かなりあっさりと犯人が解き明かされ、そこから怒涛の“本筋”が始まる。
予測不可能な展開に翻弄されながら、瞬く間に106分が過ぎた。


そして、見ている最中、
イライラするというか、しっくりこないというか、
ザワザワするというか、とにかくスッキリしない感覚に包まれる。


鑑賞後も、なにかこう咽喉に魚の骨が刺さったような、
チクチクとした不快感を抱き続ける。


そのダメージは想像以上に強烈で、
翌日まで引きずった。


このなんとも言えない苛立ちは、
一体何に起因するのか?


漠然としていて、イマイチその理由を絞り切れずにいたんだけど、
主演の松たか子と中島哲也監督にインタビューをして、
なんとなーく判ってきて、
そのインタビューをテキスト化した段階で、だいぶ氷解した。


キーとなったワードは、
松たか子の「今生きている以上は、これを受け止めないといけない」だった。


現代社会が、新たに抱えだした問題の数々。


自分が中学生だった頃とは明らかに違う学校の風景。
今の中学生たちの感性。


でも、こんな社会や子供たちを作り出したのは、子供ではなく大人だ。


息子を溺愛し盲目状態に陥る母親。
実は他人の気持ちなんてこれっぽちも考えてない熱血教師。


告白


そして、復讐という行為に出る森口悠子という人物の見えない本心。


奇妙な大人と不可解な子供。
これら全ての“異物”を内包してしまった現代社会。


それに対する違和感。
その歪んだ現代社会の形成の一端を、
自分も担ってきたという事実に対する複雑な心境。
改善できない無力な自分への苛立ち。


どうすることも出来ないのなら、受け入れるしかない。
でもやっぱり受け入れたくないという反発心。


この葛藤のせいでイライラすんだ。


告白


更にインタビューでキーワードを得た。
それは中島哲也監督から発せられた「コミュニケーションの欠如」と「孤独」だ。


冒頭のホームルームのシーン。
森口悠子は喋りまくる。


しかし、誰も話を聞いてはいない。
でも森口悠子は一人喋り続けている。


この教室で繰り広げられている様子は、
本作のテーマ性を如実に表している。


この映画に登場する人たちは、誰とも向き合っていないのだ。


つまり孤独。


ここで松たか子と中島哲也監督のワードが結びつく。


現代社会に蔓延る異物を受け入れられない。
でも異物は存在する。


だったら触れないように生きれば良い。


臭いものに蓋をしながら生きていく。


でもそれでは逃避だ。


逃避を続けると、人間は誰とも向き合わなくなる。


結果、孤独になる…。


孤独な人たちが社会を作り出す。


そんな社会に自分が、今暮らしている。
自分も孤独なのか?


自問と恐怖が押し寄せる。


続いて、見る者にスッキリ感を抱かせない最大要因は、
釈然としない森口悠子のキャラクターだ。


告白


彼女が何を考えているのかが判明しないから、
見ているこちらも不安になるのだ。


復讐を決意してから森口悠子は、
“淡々”としており感情をなかなか表に出さないが、
いくつかポイントになるシーンがある。


雨の中を闊歩するシーンとラストシーンだ。


そして、最後の最後に発せられる言葉。


これらの全てを組み合わせても、森口悠子という人物を掴む事は出来ない。


でも、それこそが人間なのではないか?


本作では、晴れ、曇り、雨、豪雨と天候の変化が印象的なんだが、
人間の感情だって天気と同じ様に変化する。


人間は単純じゃない。


生徒たちも、過保護な母親も、熱血教師もそうだ。
彼らの本質を他人が捕らえることなんて出来るわけがないんだよ。


なーんてね。


とにもかくにも、
本当に一筋縄ではいかない、奥深い映画でした。


そんな映画の感想を文章化にするのも困難で…。
あぁ、しんどかったぁ。


■『告白』
※松たか子&中島哲也監督 インタビュー テキスト
告白 松たか子 中島哲也監督

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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