2011年05月11日更新

裏#85 見てから読んでね『ブラック・スワン』


ブラック・スワン

『ブラック・スワン』


5/11よりTOHOシネマズ日劇ほか全国にて
配給:20世紀フォックス映画
(C)2010 Twentieth Century Fox




難役のプレッシャーから、次第に混乱し始め、
現実と悪夢が交錯してしまうバレリーナ・ニナの姿を描いた『ブラック・スワン』。


随分前にちょっとだけ予告編の映像を見た際に、
「なんだか得体が知れない映画」という印象を持った。


アート作品?人間ドラマ?サスペンス?
それともホラー!?


なんだか分らないけど、凄そうだと思った。


その後、日本でマスコミ試写が周り始め、
知り合いのライターさんから、評判が良いという情報をもらい、
追って『ブラック・スワン』を見たそのライターさんから「凄かった」という感想を聞いた。


さらに、第83回アカデミー賞で、ニナを演じたナタリー・ポートマンが、主演女優賞を獲得。


ブラック・スワン


凄そうだし、評判も良いし、賞も受賞している。
俄然、期待指数もUPする。


でも、あまり期待し過ぎちゃうと、
そのハードルを越え切れなくて、「思ったより・・・」ということになるケースが多々ある。


過度な期待は禁物なんだが、
『ブラック・スワン』は、そんな危惧を吹っ飛ばした。


形容するならば、やっぱり“凄い”。


演技、映像、演出、衣装、音楽、セットなどなど、
映画を作るうえで必要な要素の全てが凄い。


そして、鑑賞後に「内容をほとんど知らないで見て良かった」と思った。


『ブラック・スワン』の“得体が知れない”部分を知ってしまっては、
面白さは半減していただろう。


ブラック・スワン


本作は、普通のドラマのようにスタートするが、
序盤から見るものを不安にするような演出が随所にインサートされる。


カット割りや音響効果を巧みに使い、
まるでホラー映画のようにびっくりさせるシーンもある。


でもニナのプリマとしての試練と孤独と性への目覚め、
母の寵愛、ライバル・リリーへの憧れと嫉妬、芸術監督ルロイとの微妙な師弟関係、
元プリマのベスとの確執など、
話の軸は人間ドラマであり、決して、ホラーではない。


また、バレエの稽古のシーンもじっくりと見せてくれる。
まるでアート映画を見ているようだ。


様々なジャンルが混在している作品になっている。


で、練習しても黒鳥をうまく演じきれないニナは、
次第に錯乱していくんだけど、
見ているこちらまでも、現実と悪夢の境界線が定かじゃなくなり、
本当に彼女が錯乱しているのかどうなのかが、わからなくなってくる。


ブラック・スワン


全てニナのメンタル的な混乱が引き起こす悪夢なんだけど、、
バリエーションがあるから、見ている方も混乱するんだと思う。


自分の分身を見てしまうまさにメンタル的なもの。


背中かから変な黒いものが出てきたり、
指から突然血が出たりとフィジカルなもの。


動くはずのない部屋に飾ってある絵が動くという、
対物的なもの。


これらはどちらかというと視覚に訴えるホラーに近い古典的な描写だ。


これに、母親の異変、態度が二転三転する掴みどころのないライバルのリリー、
なにをしでかすか分らない元プリマとのやり取りなど、
リアルにありそうな対人関係が生み出すサスペンスも加わる。


これも悪夢なのか?


ありえないような悪夢とありえそうな悪夢が、交互に押し寄せ、
時にミックスして襲い掛かってくるので、
我々もわけがわからなくなってくるのだ。


そして、それは、「白鳥の湖」の舞台初日というクライマックスに向かって、
益々エスカレートしていく。


ブラック・スワン


もうクライマックスは圧巻の一言。


「白鳥の湖」と見事にシンクロしながら、
現実と悪夢が交錯し、怒涛のラストを迎える。


まさに圧巻で、
圧倒されまくった。


終わった瞬間、「凄いものを見てしまった・・・」って。


悲劇なのに、なんだか達成感があってスカッとさえする。
悲しみよりも快感が先に立つってのも凄い。


で、改めて思い返してみると、
「白鳥の湖」とニナだけでなく、
母親も、リリーも、ルロイも、ベスも、
白と黒が表裏一体化していることに気が付く。


うーん、なかなか深いではないか。
間違いなく『ゼブラーマン』よりは深いね。


そして、よく言われていることだけど、
ナタリー・ポートマンがアカデミー賞を受賞したのは大・大納得だ。


バレリーナになりきるだけでも大変なのに、
プリマで、しかも白鳥と黒鳥も演じ、
更にニナの微妙な心の機微まで表現しなくてはならない。


ニナを理解するために、撮影中は孤立していたというから、
肉体的にも精神的にも相当ハードな役だったと思う。


その役者根性に脱帽です。


ナタリー以外のキャストも素晴らしい。


ブラック・スワン


ナルで軽薄なところもあるんだけど、
実力者である芸術監督ルロイを演じたヴァンサン・カッセルは、説得力があった。


リリーを妖艶に演じたミラ・クニスのアニュイな雰囲気は、
作品の重要なファクターだ。


ブラック・スワン


世代交代を余儀なくされ、
自暴自棄になる痛々しい元プリマ役柄のウィノナ・ライダーも、
堂に入っている。


ブラック・スワン


そして、なんと言っても母親を演じたバーバラ・ハーシーでしょう。
なんでアカデミー助演女優賞にノミネートされなかったんだろう?


まじでおっかない。
ただ、そこにいるだけなのに・・・。


凄まじい存在感だ。
間違いなく『ブラック・スワン』で一番怖いです。


『ブラック・スワン』


でも怖いだけじゃない。
母親が最後にニナに放つセリフと、
ラスト前の客席での表情は、“母”なのです。


このメリハリが良いのです。


母は偉大です。
ちょっと泣けました。


演技も良ければ、演出も良い。
話的にはいくらでも陳腐で、滑稽になり得るんだけど、
それを格調高い一級の芸術作品に仕上げたダーレン・アロノフスキー監督のセンスも凄い。


ダーレン・アロノフスキー


文章中に、“凄い”が頻発していますが、
本当に“凄い”と思える作品でした。


この“凄さ”を感じるためには、
何度も言うが、何も知らないで見ないとダメなのだ。


因みに本作の予告編は、最悪です。
見せすぎ。

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コメント (1)

Anonymous:

なんでセブラーマンwwww
しょせんパーフェクトブルーのパクリだろ

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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