![]() 5/28より新宿ピカデリー、丸の内TOEIほか全国にて 配給会社:アスミック・エース (C)2011映画『マイ・バック・ページ』製作委員会 |
1969年。全共闘運動がピークを迎えていた時代。
新聞社で週刊誌編集記者として働く沢田は、
取材対象である活動家たちの志を共有したいという思いと、
ジャーナリストに必要な客観性の狭間で葛藤する日々を送っていた。
1971年。全共闘運動が急速に失速した後の時代。
取材を続ける沢田は、梅山と名乗る活動家からの接触を受ける。
「銃を奪取し武器を揃えて、われわれは4月に行動を起こす」と意気揚々と語る梅山に対して、
沢田は疑念を抱きながらも、親近感を覚え惹かれていく。
しかし、この出会いが2人の運命を大きく変えていく・・・。
![マイ・バック・ページ](http://www.t-shirt-ya.com/itoup/images/mybackpagetwo.jpg)
今、旬であり、また、今後も日本映画界を牽引していくであろう、
妻夫木聡と松山ケンイチが共演ということで話題だが、
個人的にはそこよりも山下敦弘監督作品というところに注目がいく。
原作は、現在、評論家の川本三郎が、
ジャーナリストだった頃の自身の体験を綴ったノンフィクション。
ということで、明らかに今までの山下敦弘監督の作品とは異なる題材を扱っている。
なぜ、この題材で山下敦弘監督なのか?
なぜ、今の時代に“あの時代”なのか?
そんな疑問を抱きながら見た。
![マイ・バック・ページ](http://www.t-shirt-ya.com/itoup/images/mybackpageyamasita.jpg)
山下敦弘監督
山下敦弘監督は、
一歩引いた目線で、傍観者的に登場人物を捉えることによって、
時にユーモラスに、時にシニカルに人間の滑稽さや悲しい性を描き出すことが得意だ。
その効果を生み出すために、カメラはロングショットで、
長回しを多用する。
長いワンショットの中に、妙な“間”があり、
その“間”が独特のテンポを生み出す。
これが山下敦弘監督の作家性なわけですが、
『マイ・バック・ページ』では、
室内の空間の使い方とか、所々“山下節”があるものの、
やはり今までの作品とはかなり違った作風になっていた。
でも、ある程度、“らしさ”を封印した結果、
語弊のある言い方かもしれないけど、“普通の映画”となり、
ライトな映画ファンや、普段あまり映画を見ない人でも、
すんなり見ることが出来る、見やすい作品になっているように思う。
とはいえ、山下敦弘監督の作風が好きな者としては、
やはり違和感を覚えるんだけど、
だからといって「今までと違うじゃないか!」という否定的な思いには至らなかった。
![マイ・バック・ページ](http://www.t-shirt-ya.com/itoup/images/mybackpagetuma.jpg)
山下敦弘監督は、現在、34歳。
キャリア的にも違う何かにチャレンジする時期だったのではないだろうか?
音楽の世界では、こういうの割と多い。
帝王メタリカは、91年に「メタリカ」(通称ブラックアルバム)を発表し、
ヘビネス路線へと突き進む。
しかし、90年代半ばに発表したアルバム「ロード」「リロード」は、
セールス的にはまずまずだったものの、ファンからの評価はかなり悪かった。
2003年の「セイント・アンガー」も、メロディアスさが更になくなり、
カーク・ハメットのギターソロが皆無という内容で、
多くのファンを失望させた。
ところが、2008年に5年ぶりのアルバムとなる「デス・マグネティック」で、
初期メタリカを髣髴とさせる怒涛のスラッシュメタル路線に原点回帰。
更にその後に行われたツアーでは、
初期のアルバムに収録されていたファンお馴染みの名曲を大量にセットリストに組み込み、
長年のファンを歓喜させた。
メタリカは、15年ぐらい遠回りをして戻ってきたのだ。
でもその15年は決して無駄ではない。
「デス・マグネティック」の曲を聴けば、
「ロード」、「リロード」、「セイント・アンガー」のテイストが、
ブレンドされていることが判る。
わが愛するデフ・レパードも、
デフ・レパードらしいゴージャス・サウンドを排し、
当時主流だったオルタナティブ・ロックを意識しまくった「スラング」を96年に発表し、
多くのファンをがっかりさせた。
続く「ユーフォリア」(99)で本来のデフ・レパードに戻り、ファンを安堵させるも、
ポップ路線に走った「X」(02)で再び迷走。
しかし、2006年のカバーアルバムを挟んで発表された、
実に6年ぶりとなるオリジナルスタジオアルバム「ソングス・フロム・ザ・スパークル・ラウンジ」で、
ファンを涙させる。
このアルバムは、デフ・レパードの“らしさ”が出ているだけでなく、
「スラング」、「X」の要素も踏襲しているという集大成のような作品になっている。
そして、本作での来日ツアーは、往年の名曲テンコ盛りの内容で、
問題作である「スラング」、「X」に収録されている曲は一曲も演奏されなかった。
メタリカと同じく、デフ・レパードも紆余曲折を経て戻ってきたのだ。
と、話が山下敦弘監督から大分それましたが、
山下敦弘監督も同様で、
『マイ・バック・ページ』を含め、
様々なジャンルや今まで扱ったことのない題材にどんどんチャレンジして欲しい。
失敗することもあるかもしれないけど、
いろんなものを吸収して、また原点回帰すれば良いのだ。
きっと、その頃には“らしさ”に濃厚な“味”が加わっているに違いない。
ビートルズだって最後は「ゲット・バック」だった。
![マイ・バック・ページ](http://www.t-shirt-ya.com/itoup/images/mybackpagematuyama.jpg)
ということで、山下敦弘監督の新境地開拓は、ウェルカムだ。
しかしですね、
「なぜ、今の時代に“あの時代”なのか?」というもう一つの疑問は、
映画を見た限りでは、ちょっとピンと来なかった。
「革命」とかに情熱を燃やす若者たちに対して、
シンパシーを感じることはできないんだけど、
何事にも真剣に取り組むという“熱さ”が、
今の時代には欠けていると思うので、そこかなぁーって。
あと、ジャナーリストの存在意義や社会に与える影響力が、
誰もが発信者になれる今とは、明らかに違うというのを改めて感じた。
そして、この映画のラストシーン。
大好きです。
あの時代とか、そういうの抜きにして、
刺さるものがありました。
なるべくならば、劇中に登場する映画『ファイブ・イージー・ピーセズ』、
『真夜中のカーボーイ』を鑑賞してから見て欲しい。
そんな見ている暇がない!って方は、
「エンタメ〜テレ 最新映画ナビ」の特集『マイ・バック・ページ』を是非!
![特集マイバックページ](http://www.t-shirt-ya.com/itoup/images/mybackpagtoksyuu.jpg)