2006年11月06日更新

#130 「驚愕の長回し」

長時間カットをせずにカメラを回し続けて撮影する“長回し”という技法がある。

伊藤Pは固定カメラの長回しがあまり好きではないのですが、ビクトル・エリセ監督が「エル・スール」(‘83)でみせたカメラ据え置きの長回しは好きだ。


1本の長い並木道。少女が自転車で画面手前から奥の方へと走って行く。ずぅーとカメラは回り続け、どんどん少女は小さくなり、やがて見えなくなる。すると、見えなくなった向こうから、成長した少女が自転車を漕ぎながらやって来る。


少女の成長を1カットで見せ切る素晴らしい演出で、随分前に見たけど、長回しといえばこれ!!ってぐらい印象に残っている。


固定カメラであっても、こういう意味のある長回しだったら良いのですが、例えば、人がただ歩いているところを、ダラッと撮影しているものとかダメっすね。なんか、見ていて退屈なんだよね。


一方、動きのある長回しは、キャストとスタッフが計算しまくって作り出すシーンなので、結構好きなのが多い。

古くはオーソン・ウェルズの「黒い罠」(‘58)。クレーンを使用し、大胆な移動をみせる長回しは、製作年度を考えると相当大掛かりだったことが伺える。


その他、ブライアン・デ・パルマ監督作「スネーク・アイズ」(‘98)の冒頭13分の長回しなんかは、伊藤Pが宣伝担当をした作品ってのもあり思い入れが強い。


最近だとジョニー・トー監督作「ブレイキング・ニュース」(‘04)での冒頭の7分間1カットの銃撃シーンもなかなかです。ただ、この作品はこの7分間に全てを費やしてしまったのか、作品全体としてはあんまり面白くない。


それからトニー・ジャー主演の「トムヤムクン」(‘05)では、4分間長回しの格闘シーンに挑んでいる。「リハーサルは1日に2回ぐらいしか出来ないから大変だったよぉ〜」とトニー・ジャーは言っていた。それだけ事前のチェックが必要なのでしょう。


どれもこれも、役者の動きとカメラの動きが一体化しないと成立しない、綿密な打ち合わせと、緻密な計算の上に成り立つ撮影方法。だからこそ、見る者を魅了する。

そして、先日、強烈な長回しに度肝を抜かれた作品に出会った。

「ハリポタ3」のアルフォンソ・キュアロン監督作「トゥモロー・ワールド」という作品。

子供が生まれない世の中になった近未来のイギリス。主人公はとある紛争に巻き込まれて、戦火の中に身を投じる事になる。


その戦火の銃撃シーンで長回しが見られる。


途中で、「あれ?これ長回し?」って気が付いたのですが、気付いてからもそれはそれはなが〜い、なが〜い長回し。

弾丸が飛び交う路上を逃げ回る主人公。バスに逃げ込むも激しい銃撃を浴びる。再び路上に飛び出し、建物に入ろうとするが、戦車が砲撃。大爆発。隙を見て建物に入り、階段を駆け上り、また銃撃に遭い逃げ惑う。


この間8分。


激しい銃撃と爆発の中を主人公が走り回り、それをステディカムが追いかける。多くの俳優たちの演技と動き、銃撃に爆発、そしてカメラの動きと全てのタイミングが合わないと、こんな撮影は絶対に出来ない。


あと、主人公がバスの中に入った瞬間、人が撃たれ血しぶきが飛び散り、血糊がカメラに付着する。

「うわー、血糊が付いたまま長回し続行!?」って思って注意しながら見ていたのに、いつの間にか血糊が消えていた。

い、いったいどうやって。。。

謎の現象に驚き、高度なテクニックに唸り、恐怖感煽りまくりの臨場感溢れる映像に痺れる。

いやー、凄いよぉ〜。この長回しは。驚愕ですね。驚愕。アカデミー撮影賞受賞もんだよ。

マイク水○さん。こういうのを本当の長回しって言うんですよ。

更に、この映画にはもうひとつテクニカルな長回しがある。こちらも是非探してみてください。


ということで、こういった映画撮影のテクニックを見るのも、映画鑑賞の楽しみのひとつになって頂ければ幸いであります。

PS:この作品、途中で豚のオブジェが宙に浮いているシーンに出くわします。こ、これは。。。大御所プログレ・バンドのアルバムジャケットのパロディでは!?劇中、使用されている曲は最大のライバル、クリムゾンの「宮殿」なのに。。。わかる奴にしかわからない細かいギャグだ。。。

鑑賞後、宣伝担当のHさんに開口一番「豚、気付いた?」と言われ、「当然です」と答えたら、「君だけだよ」って言われた。

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コメント (2)

おたま:

こんにちは。
いきなりですが、私が聞いた話によると、「トゥモローワールド」は長回しじゃないらしいですよ。
なんでも、長回しに見える映像を作成できる合成ソフトのようなものを使ったんだとか。
というか、そんなソフトを自分で作成したらしいです。
それだけ映画にかける情熱が凄いってことですよねー。
あくまで聞きかじりの情報なので確証はないのですが…
間違っていたらすいません。

伊藤P:

>おたまさん


コメントありがとうございます。そして、レスが遅くなりまして申し訳ない。
事実関係を調べてからと思っていたら、ついつい先延ばしになってしまいました。


そして、調べた結果、おっしゃる通りカットを繋げているようですね。
まったく気付きませんでしたし、知りませんでした。


マスコミに配られた資料にも明記されていなかったので、すっかり騙されましたね。


デ・パルマの『スネーク・アイズ』も冒頭13分の長回しが話題になりました。
通常フィルムでの撮影は(確か)12分が限度なので、それ以上の長回しは不可能。
なのに13分なので、絶対に繋いでいるはず!って。


実は伊藤Pこの映画の宣伝担当で、どこで繋いでいるのかを「めざましテレビ」で検証してもらったことがあります。


どこで繋いでいるかは、意外と簡単にわかるのですが、
『トゥモロー・ワールド』は凄いですね・・・
まぁ、技術の進化もあると思いますけど。


長回しじゃないにしても、テクニックとセンスがないと撮れない凄いシーンであることには、変わりありませんね。


とにもかくにも教えて頂きまして、感謝!であります。
ありがとうございました。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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