2008年04月10日更新

#206 『フィクサー』

原題は「MICHAEL CLAYTON」。


作家のマイケル・クライトン(「ジュラシック・パーク」「ER」)の伝記映画かと思ったら、
“マイケル・クレイトン”と読むそうで・・・(注1)
へぇ、こいつはとんだ勘違い、失礼いたしやした・・・


で、邦題が『フィクサー』となった。




『フィクサー』
『フィクサー』
1/12よりみゆき座ほか全国東宝系にて
配給会社:ムービーアイ エンタテインメント




フィクサーとは“もみ消し屋”のことで、
アメリカの法律業界では隠語として使われているという。


本作はそんな一般人があまり知ることのない、
“もみ消し屋”を主人公にした社会派サスペンス映画だ。


集団訴訟を起こされている大手農薬会社の弁護を担当しているアーサーが、
突然、精神崩壊をきたす。
その処置のために送り込まれたのは、
アーサーと同僚で、フィクサーであるマイケル・クレイトン。


マイケルは何故アーサーが壊れたのかを探り、
やがてとんでもない真実を突き止める。
しかし、既に後戻りの出来ない危険な領域に足を踏み入れていて、
命を狙われることに・・・


『フィクサー』


まず、キャラクター設定が良い。


ジョージ・クルーニー演じるマイケルは、スーパーヒーローではない。
自分の歩んできた人生に懐疑的で、借金もある。
窮地に陥っていると知ると、恐怖に怯える。
ギリギリのラインで踏みとどまり、自分の身を守りながら真実を暴こうとする。


事の発端となる同僚のアーサー(トム・ウィルキンソン)は、
弁護士としての立場と、人間としての良心の板挟みにあい、
もがき苦しみ、やがて崩壊する。


訴訟を起こされた農薬会社の法務部本部長カレン(ティルダ・スウィントン)の、
そのか細い両肩には、訴訟金の3000億円というとんでもない金が圧し掛かっている。
ちょっとのミスで、会社に巨大な損失を与え、自分のキャリアも終わる。
プレッシャーに押し潰されそうになりながら、働いている。


この物語のメインとなる3人のキャラクター全員、精神状態があまりよろしくない。


この3人に関わらず、人は生きていれば、各々の立場、役割、考え、言い分があり、
困難な事態に直面すれば、戦い、傷つき、傷つけ、苦悩する。


だからマイケル、アーサー、カレンのそれぞれに対して、
見るものは何かしらの共通点を見出し共鳴できる。


フィクサー


そして、本作は、
“金やイメージを守るためだったら、たとえそれが悪行であっても証拠を潰し隠蔽する”
という日本でも多く見られる、企業モラルの問題についても鋭く言及している。
そして、それが上記3人を含め、我々一般レベルの問題にも絡んでくる。


アーサーを演じたトム・ウィルキンソンのコメントが印象的だ。


「モラルを逸脱している犯罪行為を告発する人が少ないし、
 家に帰れば税金を払い、自分の子供を愛している普通の人々によって、
 その過ちがなされている。
 しかも、その過ちによって追い詰められる人もほとんどいない」


善人と悪人の境目は?
その過ちはどこまでの範囲が許されるものなのか?


マイケルもアーサーもカレンも善悪二つの面を持ち合わせていて、
立場上やらるべき善行と、人としてやってはいけない悪行の両方をやる。


もちろん、全ての人が、その大きさに関わらず悪事に手を染めているわけではないけど、
そういう立場に置かされる危険性は、生きていればあるかもしれない。


『フィクサー』は、サスペンス映画だけどとても深い作品だ。


ただ、ジョージ・クルーニー関連の作品に多く見受けられる、
過剰な説明を排した作りになっているので、
セリフひとつひとつをキチンと追っていかないと、
途中で置いてけぼりを食らう可能性があるので要注意。


ジョージは脚本に惚れ込んで、製作総指揮と主演を買って出たらしいけど、
なんかわかる様な気がする。


また、以前、インタビューで、
「欠点があって、喧嘩に勝てないような人が好きなんだ」
と述べていたんだけど、今回演じたキャラクターもタフガイではない。


いかにもジョージが好きそうな脚本とキャラクターってことですな。


そして、そんなジョージ兄ィは今回も、カッチョイイっす。惚れます。


最後に:先日亡くなったアンソニー・ミンゲラが製作総指揮を担当している。合掌。


(注1)マイケル・クライトンのスペルは、Michael Crichton。
    

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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