2008年06月27日更新

#240 『歩いても 歩いても』

「傑作でした」


鑑賞後、宣伝担当の方に送った感想なのですが、この一言だけだった。




歩いても歩いても
『歩いても 歩いても』
6/28よりシネカノン有楽町1丁目、アミューズCQN、新宿武蔵野館ほか全国にて
配給会社:シネカノン




父、母、娘、娘の結婚相手と子供、
息子、息子の妻とその連れ子。


夏。15年前に溺れた子供を救うも、自らの命を落としてしまった長男の命日。
横山家に集まった人々たちが織り成す“家族像”。


たった1日。
なんの事件も起こらない。


なのに見る者の感情を激しく揺さぶる。


しかも、“家族って良いよね”みたいな単純なものではなく、
愛おしくて、煩わしくて、厄介で、時に残酷な“家族”が描かれる。


それ故なのか、自分の体験と重ね合わせ、様々な感情が沸きあがり、
ひとつひとつのエピソードにいちいち刺さりまくる。


久しぶりに実家に帰ってきた息子が、土産のスイカを冷やすために風呂場へ行く。
風呂場には前は無かった手摺が付けられ、タイルも剥がれている。


この描写にセリフはないし、短いカットだ。
でも観客は多くの事柄を感じ取る。


風呂場だけでなく、湯沸かし器、
物が雑然と詰め込まれ物置と化した部屋、
縁側、縁側の下のスペースに仕舞い込まれた瓦、
四角型の電気の傘、テーブル、玄関の置かれた懐中電灯など、
横山家に置かれたあらゆる物が自分の記憶にリーチしまくる。


歩いても歩いても


家族間の会話も「仕事はうまくいっているのか」とか、
どこにでもある会話なんだけど、
“あぁ、オレもオヤジと会えば必ず聞かれたな”って思い出す。


孫たちのためにアイスを買ってきた時の、
母、娘、その子供たちの会話とかも、
“あぁ、あったなぁー、こういうやりとり”ってなる。


夫婦、父と息子、母と娘、嫁と姑。
それぞれの人間関係が巧みに描き出されているから、
見る人によって“あぁ、わかる!”というセリフも違うことでしょう。


脚本が上手いよ。


その他、頻繁に登場する階段や坂。
昇って降りての繰り返し。
これは「水戸黄門」の主題歌だ。


歩いても 歩いても


役者も良い。


実は、伊藤Pが今一番好きな日本人の俳優は阿部寛。


シリアスからコメディ、そして時代劇までこなすキャパシティの広さと、
その順応性は凄いと思う。
しかもどの役もしっかり“阿部寛”を主張している。


どちらかというと“濃い”役が多かったけど、
本作ではどこにでもいる男を演じている。
そして、見事にはまっている。


はまっているといえば、母親を演じた樹木希林。
今更、演技が上手いとかいう女優さんではないが、
あえて言う。


“上手すぎる”


この母親、優しくて世話好きで温厚そうに見えるけど、
とあるシーンで一瞬見せる表情と発言は、背筋がゾクッとするほど怖い。
今年一番のホラーシーンだった。


そう感じさせてしまう樹木希林は、怖いほど上手すぎる。


息子の嫁に対して発する、
無意識なのか意図しているのかわからない様な心無い発言とか、
この母親の多面性が見え隠れする。


で、この母親が取る行動がまた、“あぁ〜”ってなる。


例えば、娘に料理を任せられないとか、
お墓の脇の雑草をむしるとか、
物を捨てられないとか....


インタビューした際に阿部寛さんが、
「どう説明したらいいのかわからないぐらい、良い映画」
と言っているのですが、まさにその通りの作品。


こうやってなんでもない日常を切り取って見せて、
見た人にいろんな“心のお土産”をくれる映画って、
本当に凄いと思う。


たった1日の話なのに、人生を感じさせてくれる、
とてもとても奥深い映画。


感銘を受けまくったけど、多分、伊藤Pも、
阿部寛演じる息子の様に、
「結局、間に合わなかった」って言い訳するような気がする・・・






『歩いても 歩いても』
※阿部寛 インタビュー 動画 & テキスト

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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