2009年10月06日更新

#417 『エスター』


エスター

『エスター』

10/10より渋谷東急、新宿ミラノ座ほか全国にて
配給会社:ワーナー・ブラザース映画
(C) DARK CASTLE HOLDINGS LLC




3人目の子供を流産した悲しみを乗り越えるために、
養子を迎い入れたケイトとジョンのコールマン夫妻。


その養子のエスターは、クレバーで、絵や音楽の才能にも秀で、
天使の様な笑顔を撒き散らす。


しかし、コールマン夫妻の周囲で、次々と不可解な事件が起こり始める。
やがてケイトは、“エスターが犯人ではないか?”という疑問を抱き始める・・・。


エスター


可愛い顔して残酷非道なことをやる子供。


『オーメン』に登場するダミアンの少女版かと思いきや、
別にエスターは“悪魔の子”ではなかった。


巨大な避雷針を折って、串刺しにすることもしないし、
ガラス板を荷台に積んだトラックを坂道発進させ、首チョンパにすることもしない。


摩訶不思議な特殊の能力を駆使することなく、
知恵と物理的に可能な行動だけであれよあれよという間にコールマン一家を、
文字通り凍りつかせる。


リアルな分、こんな子供が身近にいたら・・・という恐怖を味わえる。


エスター


子供じみた行動もあるが、
中には“9歳の女の子が、理路整然とやれることか?”と思える行為もある。
その辺のバランス感が巧みでもあり、本作のミソでもある。


残酷描写も、結構直接的で“痛い”。


恐怖描写の方はというと、要所要所で“外し”を使い、
“いつくるか!?”という観客の怯えをより一層駆り立てる。


最近のホラー映画は、“セオリー”を逆手に取る傾向が大いにある。
作り手はあの手この手で、観客を楽しませようと日々模索しているんだね。


そして、本作の優れたところは、
エスターがコールマン家にやって来る前と、
その後の子供たちの微妙な心境変化をきちんと描いている点。


エスターが来る前のコールマン夫婦は、
死産という不幸に見舞わているが、長男と長女を愛している。


長男のダニエルはちょっと横暴だけど、
耳の不自由な長女にも差別することなく普通に接する優しい少年だ。


長女マックスは物静かだが、コールマン家に明るい要素を持ち込んでいる。


エスター


そして、エスターがやって来る。


ダニエルは自分に対する両親の注目度が下がり、
歓心を得ようとするが事態は悪くなる一方。
そのため、エスターが家族の一員になることを受け入れられない。


マックスは純真な心の持ち主ゆえ、
エスターにその隙を突かれて取り入られてしまう。


子供たちの性格とエスターから受ける影響が、
本作により深みを持たせると共に、物語を構成していくうえで、
重要な要素となっていく。


特にマックスの存在は本作の肝だ。
彼女のキャラクターが活きないと、全部ダメになる。


続いて、ケイトは、“母親”であろうとするために、
エスターとことごとく対立してしまう。


エスターもケイトにだけ徐々に違った一面を見せ始める。


ケイトはそんなエスターの変貌を夫のジョンに訴えるも、
何も気が付かないジョンは、かつてケイトがアルコール依存症だったこともあり、
全く取り合おうとしない。


このジョンの耳をまるで貸そうとしない行動にはかなりイライラさせられる。


映画的には主人公を孤立無援状態にさせる常套手段だけど、
冒頭の夢のシーンや、死産、ジョンがかつて浮気をしていたこと、
アルコール依存症、ケイトは本音を夫ではなく日記に吐き出していることなど、
コールマン夫妻の間には問題がたくさんあり、深い溝が存在していることが描かれているので、
よくある手法で終わらせていない。


エスター


他にもイライラさせられるシーンがいっぱいある。


でもこのイライラは、ホラー映画に無くてはならない必須要素。
イライラの行き着く先は、更なる恐怖。
そして、その果ての安息。


このタイミングでこうくるかい!というお約束の展開や、
小道具を使った伏線など、
注意深く見るとかなり細かく計算がなされた演出となっている。


レオナルド・ディカプリオが、本作の脚本を読んでプロデューサーに名乗りを上げたのも納得だ。


役者もみんな良い。
特にエスターを演じたイザベル・ファーマンを筆頭に、
マックス役のアリアーナ・エンジニア(実際に耳が不自由)、
ダニエル役のジミー・ベネットといった子役陣の演技がバリバリ光る。


監督は『蝋人形の館』のハウメ・コジェ=セラ。
『蝋人形の館』でも主人公であるファイナル・ガール(注1)に、
生涯に残る傷を負わせ、ホラー映画の掟を破って驚かせてくれたけど、
そのオチを含め、今回も色々と楽しませてくれる。


“セオリー”と“外し”が混在しているので、
目の肥えたホラーファンでも楽しめるでしょう。


一方、、ホラーが嫌いというだけで、本作を見ないのは勿体無いな。


ホラー映画の古典と新手を一度に知ることが出来るし、
ミステリーとして、そして、親子愛として見ることも可能だ。


一点、エスターの最終的な目的がなんだったのか?という点が良く分からんかった。
仮にある目的を達成出来たとしても、エスターだって幸せにはなれないだろうに・・・。


(注1)ホラー映画で最後に生き残る女の子のこと

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☆今週末は、多くの映画が公開されるが、この作品と『さまよう刃』は観るつもりなかった。  どちらも、ジャンルは違えど、精神的にきつそうだったからだ。  ... [詳しくはこちら]

コメント (2)

おれ:

はじめて書き込みします。

エスターの最終的な目的...
彼女もただ愛されたかっただけなんじゃないかと思いました。

初めまして。
当方の記事からリンクさせていただきました。
TBが通らないようなので、こちらでご報告させていただきます。

仰天させる思い切ったオチもさることながら、よく練られた脚本で、家族を描いたドラマとしても楽しめました。
実のところ観る前から薄々そうじゃないかと思い当たってはいたんですが、あまりに大胆なエスターの正体には『シックス・センス』を思い出しました。
久々に裏をかかれる映画の面白さを満喫できたように思います。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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