2010年09月28日更新

#518 『瞳の奥の秘密』


瞳の奥の秘密

『瞳の奥の秘密』

全国にて公開中
配給会社:ロングライド
(C)2009 TORNASOL FILMS - HADDOCK FILMS - 100 BARES PRODUCCIONES -
EL SECRETO DE SUS OJOS (AIE)




8月14日に公開された映画で、「何を今更」というところではありますが、
10月下旬まで公開しているようなので、掲載しておきます。


舞台はアルゼンチン。
刑事裁判所を退職したベンハミンは、
自身が関わった25年前のある事件をテーマに小説を執筆することを決意し、
かつての上司で、今は判事補になっているイレーネを訪ね、事件を回想する。


その事件とは、軍事政権下の重苦しい空気が漂う1974年に起きた殺人事件。
新婚の美しい女性が自宅で強姦されたうえ、殺害されのだ。


渋々事件を担当したベンハミンであったが、
捜査を進めるうちに、自分ではどうすることも出来ない渦へと巻き込まれていく・・・。


人生36年目にして、多分、初めて見たアルゼンチン映画だと思う。


あまり馴染みがないということは、
監督の作風も、どんだけ凄い俳優が出ているのかも分らないということ。


その分、かえって監督がどうだとか、役者がどうのという先入観無く見ることが出来る。


もちろん、キャストも作品の一部なんだけど、
スターが出ている分、贔屓目にということにはならないので、
楽しめるか楽しめないかは、作品そのものに拠ることになる。


そして、『瞳の奥の秘密』は、
監督の作風を知らなくても、スターが出ていなくても、
十分に楽しめる作品でした。


残忍だかこそ、逆に求心力を生み出す殺人事件の謎。
犯人を追い詰めるサスペンス。
妻を殺された夫の執念。
どうすることも出来ない国の圧力。
裁判所における上下関係の軋轢。
事件を通して痛感してしまうベンハミンの劣等感。


一つの殺人事件から、様々な要素が飛び出してくる。


そして、一本、ドスンと芯を貫いているのが、愛だ。


ベンハミンとイレーネの愛。
そして、殺された妻とその夫の愛。


一見、サスペンス・スリラーの体を成しているが、
これは愛の物語だ。


瞳の奥の秘密


が、しかし、
その愛の形にイマイチ共鳴できず、
乗り切れなかった・・・。


特にベンハミンとイレーネの愛の形は、
“オトナ”過ぎちゃって、まだ、30代のオイラには到達できない世界なのかも。


また、サスペンスとしても、
オチの部分は、ある段階(と言ってもかなり終盤)で、確信はないけど、
なんとなく予測が出来てしまった。


愛は響かないし、オチにも衝撃を受けずで、
そこは残念ではあったのだが、
映画全編に漂う緊張感は凄まじく、
あらぬ方向に向かっていく物語の展開には圧倒された。


過去と現在を行き来する構成も見事だし、
ミスディレクション(騙されなかったけど)や布石となるセリフの置き方も良い。
役者たちの存在感も抜群だ。


クローズ・アップとやや引き目のショットの使い分けも良いし、
ここぞ!というシーンでは、役者の立ち位置も完璧に計算されている。


サッカー場のシーンでは、
空撮からスタジアム、フィールドを舐め、
一気に客席へとズームするというかっちょいいカメラワークが見られる。


そして、スタジアム内の追跡劇は、
ポイント・オブ・ビューかと思わせておいて、
実は違うというよく分らない手法だったけど、とてつもなく臨場感があった。


「そこワンショットで撮るの?」というシーンもある。


オーソドックスな撮影が主だったので、
このスタジアムの一連のシーンは、特に印象に残った。


2時間強。
凝縮した世界を堪能。


なるほど、評判が良い訳だ。
アカデミー外国語映画賞を受賞する訳だ。


見応え十分の逸品だった。


と、納得&満足して家路に着いたのですが・・・。


ちょっと待てよ。


よーく考えると、
物語、都合よすぎねぇーか?


少し前に松本清張の「影の地帯」というサスペンス・ミステリーを読んだ。
まぁ、面白かったは面白かったんだけど、
主人公と謎の小太りの男が、やたらと偶然の遭遇をする。


この「偶然」がとてつもなく気になった。


『瞳の奥の秘密』も「必然」ではなく、
「偶然」に支配されているような気がしてならない。


特に犯人への道のりが相当、安易だ。


まぁ、見ている最中は、全くそんなことに気が付かなかったんだけどね・・・。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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