2010年11月01日更新

DVD#021 「横山秀夫サスペンス」



横山秀夫サスペンス


「横山秀夫サスペンス」


発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(C)2010 WOWOW




「半落ち」、「クライマーズ・ハイ」で知られる横山秀夫の短編小説集「真相」に収録されている「18番ホール」、「他人の家」と、
「看守眼」に収録されている「静かな家(誤報)」、「自伝」を映像化したWOWOW製作のドラマ。


横山秀夫の短編小説集は、あるエピソードにちょっとだけ登場した人物を、
次のエピソードで主役にし、それを繰り返すという連作モノが多いが、
この「横山秀夫サスペンス」は、その技法を用いている。


18番ホール


第1話の「18番ホール」は、12年前に犯した罪が、
地元の村の再開発によって暴かれてしまうのを防ぐため、
村長選へと出馬する男・樫村の物語。


樫村は、友人や現村長などの協力を得たことから、
選挙戦は楽勝と目されていたが、
強力な対抗馬の登場で徐々に暗雲が立ち込めてくる。


焦った樫村は、我を忘れて・・・。


かつての仲間であった対抗馬の立候補者が、
「樫村の秘密を知っているのでは?」と疑心暗鬼に駆られたり、
上手く行かない選挙に焦燥感を募らせ、
仲間や妻に対してまでも傍若無人に振舞う樫村。


そんな人格崩壊の過程が痛ましいんだけど、
結局は自業自得だったりする。


それでも樫村は、秘密さえなければ家庭にも恵まれているし、
十分幸せ。


男が一度得た幸福を手放して欲しくないという、
男ならではの共鳴からか、
なんとなく樫村に感情移入してしまう。


そんな樫村の秘密を見る側は知っているので、
「刑事コロンボ」的なスリルを味わうことの出来る作品。


主演は仲村トオルで、冷静さを失い次第に感情的になる樫村を演じている。


旧知の仲の支援者役の遠藤憲一と熱い演技合戦が見所の一つか。


また樫村の良妻を西田尚美が好演。
樫村への感情移入をより強くさせる役割を見事に果たしている。


誤報


第2話「誤報」は、ある写真家の展示会の日程を
誤って掲載してしまった地方新聞社の整理部に勤める高梨が主人公。


高梨は自分のミスを穏便に済ませようと謝罪に奔走するが、
数日後、高梨のもとに写真家が殺害されたというニュースが入り・・・。


高梨はミスしたことをきちんと報告しないという過ちを犯すが、
樫村ほど自業自得感はない。


その分、高梨が窮地に陥ったり、挽回のチャンスが巡ってくると応援したくなる。


まぁ、中々上手く行かないんだけどね。


で、本作では「クレイマーズ・ハイ」に通ずるような新旧世代対決がある。


これがなかなか熱い。


こういう人間ドラマを入れる辺りが、
横山秀夫が単なるミステリー作家ではないと言われる所以でしょう。


岸谷五朗が、本意でない仕事をしなくてはならない男の思いを見事に体現している。


第1話「18番ホール」との接点が、なかなかナイスな形で登場し、
物語を大きく揺さぶる。


自伝


続く第3話は、家電量販店「兵頭電機」会長、兵頭興三郎から、
ギャラ300万円の自伝執筆依頼を受けた売れないライターの只野正幸の物語。


取材初日、兵頭は「私は人を殺したことがある」と告白。
真相を探る只野は、衝撃的な真実にたどり着いてしまう。


只野正幸が、5歳の時に母親に捨てられたというエピソードが味噌となっているんだけど、
これが強調され過ぎてしまい、なんとなくオチが見えてしまう残念な一本。


連作としての面白さもあまりなく、
全4話の中ではこの作品が一番不出来だが、
たまごかけご飯が無性に食べたくなる。
(なんだそれ!)


暗い男を演じるとより冴える玉山鉄二が、
只野仁とは対照的な根暗な只野正幸をらしく演じている。


そんな玉山鉄二が、結構好きです。


他人の家


最後となる第4話「他人の家」は、
強盗事件を起こして逮捕後、刑期を負えて出所し、全うな生活を送ろうとするが、
大家に前科がばれてアパートを追い出されてしまう男・貝原英治とその妻の物語。


貝原は友達にそそのかされて、強盗に手を染めるし、
その現場で起きてしまう殺人に関しても、意図的ではない。


十分、情状酌量の余地がある男だ。


更に自分が犯した罪に対して、物凄い反省をしており、
なんとか人生をやり直そうと努力している。


そして、その妻も英治を支えようとする。


でも何かと邪魔が入り上手くいかない。


そんな貝原夫婦がもどかしいし、
なんとか幸せになって欲しいと思う。


でも・・・


一度犯罪を犯した人間は、例え法的に罪を清算したとしても、
社会的には阻害され、それこそ死ぬまで付いて回る。


そんな元犯罪者の立場を端的に描いている点も、
横山秀夫らしい。


貝原夫妻を演じるのは渡部篤郎と戸田菜穂。
人目に触れないように、ひっそりと暮らそうとする2人を自然に演じている。


物語のキーマンとなる近所の老人役の伊東四郎も、
なんだか不気味でいい感じ。


「自伝」同様、連作としてのパンチはないが、
オチを含め、物語そのものの完成度が高く、
一番楽しく見ることが出来た。


4話とも60分弱と、見やすいランニングタイムだし、
キャストも豪華だ。


入り口は、とっつき易くて、気軽な感じ。
そして、実際に見てみるとそれなりに重厚。


なんだか上手く事が運ばない男たちの悲哀に満ちた物語。
そんな作品でした。


【セルDVD】
 10/27発売『横山秀夫サスペンスDVD-BOX』4,980 (税込)
【レンタルDVD】
 10/27レンタル開始
 『横山秀夫サスペンス VOL.1』
 『横山秀夫サスペンス VOL.2』

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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