![]() 『リダクテッド 真実の価値』 10/25よりシアターN渋谷ほか全国にて順次公開
配給会社:アルバトロス・フィルム |
そういう気持ちになれる監督の一人であるブライアン・デ・パルマ。
しかも本作で2007年ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞[最優秀監督賞]を受賞している。
こりゃ、見なきゃ!
どうやらイラク戦争でのアメリカ軍の話らしいという知識のみで見たんだけど、
かなり挑戦的、かつ実験的な映画だった。
まず撮影方法だけど、ちょっと前の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』、
最近だと『クローバーフィールド/HAKAISHA』で話題になったポイント・オブ・ビュー(主観撮影)を多用している。
例に挙げた二作品と違うのは、登場人物の兵士が回すビデオカメラの映像だけでなく、
監視カメラ、YouTubeの映像も使用している点。
![リダクテッド](http://www.t-shirt-ya.com/itoup/images/redacted2.jpg)
若いアメリカ兵士たちが駐屯先で行なった任務、
それに伴って表れる心理変化と弊害をセミドキュメンタリータッチで生々しく描き出す。
善悪の判断がつかなくなり一線を越えようとする兵士と、
なんとかそれを押し留めようとする兵士の軋轢。
内部告発や隠蔽といったアメリカ軍内部の現状。
そして、アメリカ軍によってもたらされたイラクの惨劇の数々。
このあまりニュースでは報道されなかったイラク戦争の実態を、
デ・パルマ監督は我々にしっかりと見せつける。
タイトルの“リダクテッド”とは、「編集済み」の意。
資料によると、
“告訴に繋がり得る「取り扱い注意」の情報が、削除された文章や映像を指す。
刺激的な情報を文章、例えば兵士の手紙などから削除することを意味する法律用語”
つまり、メディアで報道されているイラクの情報は、
全てチェックが入り、不都合な真実はカットされて伝えられているということだ。
911以降、メディアを使った情報操作が成されていたことは、広く知られている。
デ・パルマは事実を伝えるべきメディアが、役目を果たせないことに苛立ちを覚えたんでしょう。
『リダクッテド 真実の価値』はフィクションだけど、
元になった事件は実際に起きている。
その他の劇中に登場するエピソードも、
全てインターネットで、デ・パルマが実際に見聞きした事実を元に構築している。
“イラクの真実は全てインターネットにあった”と、
デ・パルマは公言しているほどだ。
メディアは機能していないし、
インターネットは誰が撮影し、誰がアップしたかもわからない無責任な情報だ。
だったら、俺が堂々と映画でイラクの真実を伝えてやる!!ってな感じで、
非難覚悟でやってしまった。
案の定、本作はアメリカで総スカン。
大した話題にもならなかったという。
ニューヨク・フィルム・フェスティバルで上映された後、
限定公開されただけ。
存在すら知られていないぐらい、ものの見事に叩き潰されてしまった。
まぁ、デ・パルマは、70年のハリウッド・デビュー作でいきなり製作会社から解雇されているし、
83年『スカーフェイス』、90年『虚栄のかがり火』、00年『ミッション・トゥ・マーズ』と、
約10年ごとに酷評・オオコケをかまし、スランプを繰り返している。
それでもめげずに今まで映画を撮ってきたんだから、
今回のアメリカでの一件も、反逆児デ・パルマの面目躍如って感じ?
![リダクテッド](http://www.t-shirt-ya.com/itoup/images/redacted3.jpg)
あと、いつものデ・パルマ節を求めて見ると肩透かしを食らうので、気を付けてください。
華麗なるカメラワークも、計算され尽した長回しもない。
ヒッチコック色もない。
パツキン美女も出てこないし、ファム・ファタールもおらん。
なので、デ・パルマのファンは不満らしいけど、
フィルムではなくHDビデオカメラによる撮影の特性を活かして、
ベテラン映像作家が実験的で挑発的な映画を撮る。
60代後半にして、新たなフィールドに足を踏み入れる。
勇往邁進ってな感じでいいじゃない。
※今回の記事を書くにあたり、デ・パルマが9月11日生まれだと初めて知った。