2009年03月05日更新

#349 『ダウト-あるカトリック学校で-』

ダウト

『ダウト-あるカトリック学校で-』

3/7よりTOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国にて
配給会社:ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン
(C)2008 Miramax Film Corp All rights reserved.




ケネディ大統領暗殺直後の1964年。
ニューヨーク・ブロンクスのあるカトリック学校で司祭を務めるフリン神父は、
唯一の黒人生徒ドナルド・ミラーに対して常に親身に接していた。


しかし、純真な新米教師シスター・ジェイムズの目撃談を聞いた厳格な校長のシスター・アロイシスは、
フリン神父とドナルド・ミラーが“不適切な関係”にあるのでは?という疑いを抱き、、
フリン神父を糾弾し始める。


一方、シスター・ジェイムズはフリン神父の釈明を聞き、
シスター・アロイシスがフリン神父に対して抱く疑惑に対して、不信感を募らせる。


見ている観客も、シスター・アロイシス同様、
フリン神父が本当に黒人生徒と“不適切な関係”なのか疑問を持つ。


しかし、フリン神父の話を聞くと、
フリン神父が嘘を言っているようには思えなくなる。


フリン神父は嘘をついていないのか?
シスター・アロイシスの間違った思い込みなのか?


果たして真相は?、
シスター・ジェイムズ同様、宙ぶらりんの状態にさせられる。


『ダウト-あるカトリック学校で-』は、
シスター・アロイシスにも、フリン神父にも一方的な肩入れをしていない。


しかしながら、伊藤Pは男だからか、フリン神父を擁護したくなった。


シスター・アロイシスのフリン神父への攻撃は狂気じみている。
一度こうと思ったら全く意見を聞き入れない猜疑心の塊であるシスター・アロイシスは、
恐ろしいとしか言いようがない。


浮気をしてないのに、彼女や奥さんから、
“あんた浮気したでしょ!!!”と問い詰められた経験を持つ男性が、
この世にどれ程いるか分からないけど、全くいないってことはないでしょう。


そんな経験を持つ人は、シスター・アロイシスVSフリン神父を見て、
何を思うか・・・


『それでもボクはやってない』に通ずる恐怖があった。


でも、シスター・アロイシスの執拗なまでの追及は、
激動の時を迎えつつある1964年という時代背景があってこその部分も多分にある。


カトリック学校の厳格な体質や黒人問題、同性愛に対する偏見などは、
今よりもこの時代の方が遥かに強かった。


劇中のシスターたちの振る舞いや授業内容を見れば、
いかにカトリックの規律が厳しかったかが分かる。


また、黒人に対する差別は、公民権運動が活発化してもなくなっていなかったし、
60年代のカトリックでは同性愛者自体を犯罪者として見なす風潮があった。


だからこそ、シスター・アロイシスは許せなかったのでしょう。


しかし、一方でこの頃を境に、
「既成概念をぶっ壊そう」というカウンターカルチャームーブメントが巻き起こり始める。


この保守と革新の対立構造は『ダウト-あるカトリック学校で-』における、
シスター・アロイシスVSフリン神父だ。


そして、そんな激動の時代に生きた黒人の心情が描き出されているのが、
黒人生徒の母親がシスター・アロイシスに思いを激白するシーン。


かなり突き刺さった。


この母親の心中を察しても尚、フリン神父への攻撃を止めないシスター・アロイシス。
やっぱり、あなたは恐ろしい・・・


そんな恐ろしいシスター・アロイシスを演じたのは、名女優メリル・ストリープ。


『マンマ・ミーア!』での元気な中年女とは180度違う役だ。
その『マンマ・ミーア!』で取材した時に感じたあの温厚そうなメリルが、
『ダウト-あるカトリック学校で-』では“怪物女”に見える。


演技が上手いのは百も承知だけど、心底スゲーと思った。


シスター・アロイシスは、フリン神父から反撃を受けた時に、
一瞬たじろぐ。


その時のメリル・ストリープの演技が絶妙だ。
後になって、この時にシスター・アロイシス何を思ったのかが分かる。


そして、フリン神父を演じたフィリップ・シーモア・ホフマンが、また上手い。


ダウト


オープンなマインドを持っていて、生徒からも人気がある。
でもシスター・アロイシスから疑いを掛けられ、
徐々にボロが出始めると、「あれ、ひょっとしたら・・・?」ってなる絶妙な演技。


高い評価を受けた『ブギーナイツ』以降、
『マグノリア』、『レッド・ドラゴン』、オスカーを受賞した『カポーティ』、
『M:i:III』『その土曜日、7時58分』とどんな役をやっても、なんか不気味。


笑顔の裏に秘められた何か見え隠れする。


人間はグレーな存在だ。
そんな役が本当に上手い。


そして、シスター・ジェイムズを演じたエイミー・アダムス。


ダウト


『魔法にかけられて』は作品のテイスト自体が苦手だったので、
この女優さんにも大して注目しなかったんだけど、演技派なんですね。


揺れる瞳が印象的でした。


あと、出番は少ないが黒人生徒の母親を演じたヴィオラ・デイヴィスも、
強烈なインパクト残してくれる。


大きな目からボロリと涙を流すシーンとか、素敵です。


この映画、役者さんたちの目力が凄い。


本作からメリル・ストリープ、フィリップ・シーモア・ホフマン、
エイミー・アダムス、ヴィオラ・デイヴィスがアカデミー賞にノミネートされている。


主要キャスト全員がノミネートだ。


芸達者な俳優たちの凄まじい演技を堪能しつつ、
“疑惑”の真相を考えてみて下さい。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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