2009年12月09日更新

#437 『パブリック・エネミーズ』


パブリック・エネミーズ

『パブリック・エネミーズ』

12/12よりTOHOシネマズスカラ座ほか全国にて
配給会社:東宝東和
(C) 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.




大恐慌に見舞われた1930年代前半。
仲間と共に鮮やかな手口で銀行の金を奪い、
FBIから“パブリック・エネミーNo.1(社会の敵1)”に指名された男、ジョン・デリンジャー。


実在したギャングの半生を描いた実録人間ドラマ。


ジョン・デリンジャーを演じるのはジョニー・デップ。
デリンジャーを追い詰める敏腕FBI捜査官メルヴィン・パーヴィスには、
クリスチャン・ベイルが扮している。


監督は『ヒート』、『コラテラル』、『マイアミ・バイス』といった、
男の世界を描かせたら右に出るものはいないマイケル・マン。


同じく、ジョン・デリンジャーを扱った作品として、
ジョン・ミリアス監督、ウォーレン・オーツ主演で『デリンジャー』('73)があるけど、
これのリメイクって訳ではない。
(この作品の存在を知っているのは、いまや熱心な映画ファンぐらいでしょう)


ジョン・デリンジャーを題材にした映画は、他にも幾つかある。
『犯罪王ディリンジャー』('45)、『ギャング王デリンジャー』 ('65)。
90年にはテレビムービーも制作されている。


要するに映画にするのにうってつけの人材ってことだ。


そんな魅力溢れるデリンジャーの生き様を、
マイケル・マン監督はいつも通りの徹底的なリアリズムをもって描いている。


しかしながら、今回は史実に基づき過ぎたような気がするな。


まず、デリンジャーVSパーヴィスの戦いがあまり燃えない。


パーヴィスはFBIという組織を背負っている分、
対デリンジャーに対して執念を燃やさざる負えないが、
デリンジャーの方はそこまで意識していない。


パブリック・エネミーズ


ここに2人の意識のズレが生じてしまい、
映画的なライバル関係が成立しない。


直接対決もあまりなく、イマイチ盛り上がらない。


“マイケル・マン=男同士の戦い”という方程式を頭に描き、
それを期待しながら見たので、ちょっとがっかりだったな。


それを目指した作品でないことは、重々承知しているが、
実在の人物を登場させながらも、
映画的なフィクションを加えて娯楽色を強めた『アンタッチャブル』みたいにしてくれた、
もっと熱くて、心に沁みたように思う。


それからジョン・デリンジャーの人となりが描き切れているかというと、
これももう一声欲しいな。


何故、デリンジャーが、ギャングになったのか?
何故、銀行を狙うのか?
何故、銀行に居合わせた人たちからお金を奪わなかったのか?


そして、デリンジャーは、銀行強盗という「悪」であるにも関わらず、
当時、一般人からはヒーローとして見られていた。


その理由は、デリンジャーの生い立ちと、
大恐慌という時代背景が多いに関係しているんだけど、
その部分はあまりきちんと描かれておらず、
既に知識として得ていることを前提として作れている感がある。


ガキの頃は普通に“ならず者”とか“アウトロー”という代名詞だけで、
「カッコイイ!」って羨望の眼差しで見ていたけど、
今はそういう年齢でもない。


英雄視される理由を求めちゃう。


でないと、銀行強盗という悪人に感情移入なんて出来やしない。


ジョン・デリンジャーは、3歳の時に母親を亡くしているが、
決して、貧しい生活をしていたわけではないという。


少年時代は、外面は良かったけど、不良グループと釣るんで窃盗行為をしていた。


父=権力者への反発が、デリンジャーを犯罪へと駆り立たせたのかもしれないし、
好青年のような振る舞いをしつつも、実は犯罪を繰り返す行為は、
銀行強盗でありながらも、義賊となる際のヒントになったのかもしれない。


そして、大恐慌時代。
不景気の原因となった銀行や、不景気を改善できない政府は悪であり、
それに立ち向かうデリンジャーは、正義という逆の発想が市民たちに芽生える。


これがデリンジャーが、この時代の寵児と成り得たからくりだ。


また、エドガー・フーバーによって創設されたばかりのFBIにとって、
デリンジャーを逮捕することは、政府や世間に対して大きなアピールとなる。


映画でも幾度となく登場するFBI。
その黎明期にデリンジャーが、良くも悪くも大きな影響を与えていた。
この史実を知ってから『パブリック・エネミーズ』を見た方が、より良いかも知れない。


あと、女性の観客を獲得するべく、
配給会社が懸命に宣伝しているラブ・ストーリーの部分はどうかというと、
これもあんまり響くものがなかったな。


パブリック・エネミーズ


リアリズムに徹している割には、運命の女性ビリーと別れている間に、
ほかに恋人がいたことが描かれていなかったりする。
(まぁ、描いちゃうとラブ・ストーリーとして成立しなくなるか?)


ここ最近のマイケル・マンの作品って、クールで淡白だったけど、
特に今回は史実を追ったが故か、熱さが足りなかったかなぁ。


と、不満を述べてしまいましたが、
ジョン・デリンジャーの生き様そのものがドラマティックだからか、
『パブリック・エネミーズ』は2時間21分というやや長尺の作品だけど、
まったく時間を感じさせなかった。


その辺は、さすがマイケル・マン。


更に細部に渡る1930年代の再現は、凄いの一言。


機関車のシーンとか圧巻だった。


そして、マイケル・マンの特徴といえば、
HDデジタルカメラによる撮影だ。


今回も自然光を使いながら、光沢のある美しい映像を見せてくれる。


カメラの軽量化に伴い、手持ちで撮影し、意図的にクローズアップを重ね、
俳優たちの細かい表情の変化を捉えている。


まぁ、クローズアップが多いのは、正直ちょっと疲れたし、
シーンよってはマイケル・ベイの如く、
訳が分からないところもあるっちゃあるんですけどねぇ・・・。


それでも納得させられてしまうのは、やっぱりマイケル・マンだからだろう。


あと、本作の大きな魅力の一つは、豪華スターの共演でしょう。


ジョニー・デップは、もう言うことなしのカッコ良さだし、
クリスチャン・ベイルの存在感も凄い。


数少ない2人の共演シーンには、やっぱりワクワクしたな。


デリンジャーの恋人を演じたマリオン・コティヤールも綺麗だし、
後半のヤツレ顔とか、これぞオスカー女優って感じがした。


パブリック・エネミーズ


更に、脇を固める役者陣が地味だけど贅沢だった。


フーバー役はビリー・クラダップ。
『ウォッチメン』のフルチン・ブルーマンこと、Dr.マンハッタンを演じた人だ。


デリンジャーの仲間となるホーマー・ヴァン・メーターには、スティーヴン・ドーフ。
『バック・ビート』でビートルズの初期メンバーのスチュワート・サトクリフを演じて注目を浴び、
その後も、『I SHOT ANDY WARHOL』、『ブレイド』といった話題作に出演している。


デリンジャーをメルヴィン・パーヴィスと共に追い詰めるチャールズ・ウィンテッド役は、
スティーヴン・ラング。
ジェームズ・キャメロンの新作『アバター』にも出演している名脇役だ。


その他、マイケル・マンの『マイアミ・バイス』にも顔を出していた格闘家のドン・フライや、
このところ変な映画にしか出ていなかったリリー・ソビエスキーも登場する。


この主役から脇役に至るまでの役者陣が、本当に素晴らしい。


“上手い”とか“下手”とか、
見ている最中に全く感じさせない。


下手なのは論外だけど、“上手い!”って思わせないのは、
それだけ役に成り切っているってことだし、
見ているこちらも演技を意識しないから没頭出来る。


ギャングものに求めてしまう、
「男の熱き生き様」、「男同士の熱き戦い」、そして、「滅びの美学」。


この3点に不満が残るものの、
マイケル・マンの場合、「貶してはいけない」的なオーラが作品を支配しており、
今回もそのオーラに飲み込まれた感じかな。


1930年代に名を馳せ、命を散らしたデリンジャーという男が、
世界恐慌という時代を浮き彫りにし、その存在が現代にも影響を与えている。


そのことを意識して見れば、より本作を楽しめるでしょう。




<豆知識:上記、以外にもデリンジャー関連にはトリビアがある>
1.「破滅へ導く運命の女」を意味する用語として用いられる「赤いドレスの女」は、
 デリンジャーをFBIに売った女が、赤いドレスを着ていたことが由来とされている。


2.デリンジャーは、銀行強盗後、警察からの発砲を防ぐため、
  人質を車のタラップに乗せて逃亡する方法を編み出した。


3.丹波哲郎で有名な「Gメン'75」のGメンは、捜査官を意味する言葉で、
  捜査官に包囲されたデリンジャーが、「撃たないでくれ!Gメン!」と言ったことが、 
  由来とされている。


4.デリンジャーの遺体を映した映像が、YouTubeで見ることが出来る。


5.ブラッド・ピットが『ジェシー・ジェームズの暗殺』で演じた
  ジェシー・ジェームズに憧れて、デリンジャーは犯罪の道に足を足を踏み入れた。


6.FBIが名誉を保つためにデリンジャーの替え玉を殺したという説がある。
  (多分、都市伝説級の嘘)

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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