2008年01月29日更新

#183 『アメリカン・ギャングスター』

1970年代初頭のニューヨーク。
麻薬ビジネスで財を成し、ハーレムを仕切るまでに成長したギャングのボス、フランク・ルーカス。


麻薬ルートを解明し、フランクを追い詰める熱血漢刑事リッチー・ロバーツ。


二人の闘い、そして、生き様をリドリー・スコット監督が丹念に描いた大作だ。




アメリカン・ギャングスター
『アメリカン・ギャングスター』
2/1より日劇1ほか全国にて
配給会社:東宝東和
(C)2007 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.




大してアクションシーンもないのに、
ドラマだけで2時間37分見せきってしまう。
常に対決を描き続けたリドリーの面目躍如。


暗黒街を扱った作品は、対決の構図が作り易いけど、
意外にもリドリーはこのジャンルを描いたことがなかった。


『暗黒街の顔役』(ハワード・ホークス監督)
『バラキ』(テレンス・ヤング監督)
『ゴッドファーザー』シリーズ(フランシス・フォード・コッポラ監督)、
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(セリジオ・レオーネ監督)、
『スカーフェイス』、『アンタッチャブル』(ブライアン・デ・パルマ監督)
『ミラーズ・クロッシング』(コーエン兄弟)
『バグジー』(バリー・レヴィンソン監督)
『ロード・トゥ・パーディション』(サム・メンデス監督)


と言ったように、名だたる巨匠・名匠がこのジャンルで作品を残し、
高い評価を得てきた。


そして、遂に2006年度のアカデミー賞で、『ディパーテッド』が作品賞と監督賞を受賞。
『グッドフェローズ』、『ギャング・オブ・ニューヨーク』等、
再三ノミネートで終わっていたマーティン・スコセッシが、遂にオスカー像を手にした。


受賞式で年甲斐もなく大はしゃぎするマーティンを見てリドリーは、
「『グラディエーター』が作品賞に輝いたが、監督賞は受賞していない。
3度もノミネートされている。ナイトの称号も得ている。
トロフィーを飾る棚に無いのは、監督賞のオスカー像だけだ!
お、俺も欲しい!!!しかも俺の方がマーティンよりも年上なんだぞ!!」
って思ったに違いない。


しかし、2007年度アカデミー賞、『アメギャン』は冷遇された。
助演女優賞のルビー・ディーと美術賞ノミネートのみ。
やはり2年連続同ジャンルってのが災いしたか。。。


アメリカン・ギャングスター


フランクを演じたデンゼル・ワシントンも、リッチーを演じたラッセル・クロウも良い。
ただ、もうこの二人の場合、良い演技が出来て当たり前の領域だから、
更に上を求められちゃうんでしょう。


あと、フランク・ルーカスは否定しているけど、本作は実録ものだから、
事実を追いかけざるを得ない。
よって、過剰な味付けが出来ないためドライな演出になり、
見る者をグッとさせる何かが欠けてしまったように思う。


フランクのキャラクターもグッとこない要因として挙げられる。
フランク・ルーカスはギャングスターだ。


そう、ギャングなんですよ。


ギャングとマフィア。
これは同義語ではない。


マフィアはそもそもイタリアのシチリア島の犯罪秘密結社コーザ・ノストラに由来する。
イタリアではマフィア=コーザ・ノストラだ。
マフィアはギャング以上に、組織化された犯罪集団で、
警察、政治家、裁判官、芸能界までにも勢力を及ぼし利用する。


そして、何よりも掟の厳守が義務付けられている。掟を破れば、あるのは死のみだ。
逆に言えば結束力が強い。
ファミリーである。


フランク・ルーカスも周りを身内で固めるが、
ミスを犯した者への制裁は身内だろうとなんだろうと冷徹だ。
しかも窮地に陥ると家族よりも金になる麻薬ルートを守ろうとする。
血縁よりも金と地位を優先するギャングスターだ。


仁義・任侠が好きな日本人にはちょっと合わない。


アメリカン・ギャングスター


ラッセル・クロウが演じたリッチー刑事も、
不正を嫌う真面目男だが、女にだらしなく、家庭もボロボロ。
人間味があるといえばあるんだけど、
そのダメさが反って、感情移入の邪魔になる。


だから『アンタッチャブル』のような、判り易い勧善懲悪にもならない。


また、敵対する者同士だけど、
「お前、やるなぁー」的なお互いの認め合い、尊重もない。


敵ながらアッパレ!
違う形で出会っていれば・・・
というような男の友情系だけでももう少しあればなぁーという感じ。


とはいうものの、素晴らしい映画であることには変わりない。
徹底したリアリズムは、ケチのつけようが無い。


役者もみんな良い。
70年代の雰囲気も良く出ている。


デンゼルとラッセルという2大オスカー俳優が対峙するシーンとかは、
久しぶりに俳優の顔合わせだけでゾクゾクさせられた。


悪徳警官を演じたジョシュ・ブローリンも良い味出している。
『プラネット・テラー in グラインドハウス』、『ノーカントリー』、
そして本作と、立て続けに最高の存在感だ。


元グーニーズ!頑張れ!!
君しか残っていない!!
(マイキーもホビットで頑張っているけど)
しかも嫁さんは我が世代永遠のクィーン、ダイアン・レイン!
(ついでにいうと、継母はバーブラ・ストライサンド。スゲー一家だ)


フランクとリッチーが手組んで、ジョッシュを追い詰めるパートを、
事実関係にこだわらず、もっとエンターテイメント風に描いたら、
面白い作品が出来るような気もするな。


PS:
フランク・ルーカスって、
『No Country For Old Men』をリアルに体現しているような気がした。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.t-shirt-ya.com/blog/cgi/mt-tb.cgi/817

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)




リンク

プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
Powered by
Movable Type