2008年05月21日更新

#221 『山のあなた 徳市の恋』

温泉場で、盲目の按摩が東京から来た女性に恋をする物語
『山のあなた 徳市の恋』。




山のあなた
『山のあなた 徳市の恋』
5/24よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国東宝系にて
配給会社:東宝




かなり早い段階で拝見させて頂いたのもあるけど、
いつも通り、情報なし・先入観なしの状態で見た。


で、見ている最中&見た直後の感想。


■大した事件も起こらず、ゆったりと物語が流れる。
 上映時間94分。しかしながら2時間ぐらいに感じた。


■物語やラブストーリーとしてのテーマ性に、何も感じるものがなかった。
 古臭いし、なんで今こんな物語なの?と疑問に思う。


他にもいろいろあるけど、主だったところは以上2点。
明らかにマイナス的な要素ばかりだ。


しかしながら、鑑賞後、資料を読んでいろいろと感じるものがあった。


以降、鑑賞後に資料を読んで得た知識と感想です。


まず、本作はリメイクならぬ、カヴァーである。
1938年に清水宏が監督した『按摩と女』がオリジナル。


石井克人監督が『茶の味』の後、『按摩と女』を見て、
自分の目指した演出法との共通点を見出した。
そして、現代の技術で『按摩と女』を復元したいと熱望し、この企画が動き出した。


演出法が基本的に同じなので、リメイクではなくカヴァーという表現を使っている。
伊藤Pは映画における“リメイク”と“カヴァー”の違いがイマイチわからないけど、
石井監督のやりたかったことは理解出来る。
ガス・ヴァン・サントが『サイコ』をリメイクした時と同じ手法だ。


ぶっちゃけ『按摩と女』を見たいとは思わないけど、
小津安二郎の同期にして、
親友だったという清水宏という監督の存在を知るきっかけにはなった。


『按摩と女』と清水宏監督の周知は、石井監督の狙いの一つだったと思う。


ついで、舞台となる温泉場の旅籠街。
セットだと思ったら、1/5スケールのミニチュア旅籠を作り、
実写人物を合成したとのこと。


この手法はローランド・エメリッヒが、『紀元前1万年』で使ったのと同じ。


『紀元前1万年』はCGでーす!って感じだったけど、
『山のあなた』は合成だなんて全然気が付かなかった。


後日、テレビで『山のあなた』の映像が流れた時に、
意識してみたら、確かに合成だった。


これは言われなければ気が付かないと思った。
CGだって気が付かないCG。


CG前提で昭和を描く『ALWAYS 三丁目の夕日』よりも、上手い使い方だと思った。


で、一番のポイントはクラシック映画だということ。


1938年の映画をそのまま作り直した。


70年前・・・


多分、時の流れ方が違うと思うんですよ。
今みたいにセカセカしていない。


この頃の映画は、技術的な面もあるけど、展開や演出がゆったりとしている。


思えば、クラシックといわれる映画を最近、まったく見ていない。


学生時代は、チャップリンを筆頭に、
ロイド、キートン、ジョン・フォード、オーソン・ウェルズ、
エルンスト・ルビッチ、フリッツ・ラング、フランク・キャプラ、
ウィリアム・ワイラー、アルフレッド・ヒッチコックなどなど、
クラシックと言われる作品をたくさん見ていた。


今は、新作を追いかけるだけでも大変だし、時間的なゆとりもないので、
ほとんどクラシック作品を見ていない。


今見たらどう思うんだろう・・・


現代の映画はスピーディーな演出が多い。


映画だけじゃなくて、日常生活も日々目まぐるしい。
スピードを追求しがちの日本、しかも東京に住む者としては、
クラシック・ムービーの流れは、どうしたってスローに感じるよね。


70年前の映画をカヴァーした『山のあなた 徳市の恋』は、
当然、今の映画とは流れが違う。


クラシック映画とは疎遠となり、現代の映画ばかり見ている伊藤Pが、
『山のあなた 徳市の恋』を見て、違和感を感じた理由も自分なりに理解できた。


昭和の時代にあった、“ワビ”、“サビ”、“人情”、“愛情”。
どっかに置いてきちゃったかなぁ〜。


※本作は1,000円均一興行(一部劇場を除く)です。


※本作のPRを兼ねて、昨日「ぷっすま」に堤真一が出ていた。
 バラエティに出る堤真一をはじめて見た。映画以上に感動した。






『山のあなた 徳市の恋』
※マイコ インタビュー動画(5/23UP) & テキスト

 

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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