9/5より全国東宝系にて 配給会社：東宝 (C)2009「BALLAD 名もなき恋のうた」製作委員会 (C)臼井儀人／双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2009 |
やっぱりダメだった。
『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ！戦国大合戦』のリメイク。
この大傑作アニメを実写化したところで、
オリジナル版を超えられるわけがないってことは見る前から分かっていたさ。
だから“別モノ”と強く意識して見たんだけど、
ずっーと「オリジナルはこんなんじゃない！」
という気持ちを抱いたままの鑑賞となってしまった。
『アッパレ!戦国大合戦』は、
戦国時代にタイムスリップした野原しんのすけが、
武士の又兵衛と一国の姫君である廉姫と出会い、
彼らが織り成す恋と戦に触れ成長する物語。
又兵衛と廉姫の恋愛物語が中心で、
数ある映画版「クレヨンしんちゃん」の中でも、
しんのすけは添え物のように見られがちな作品なのですが、
やっぱり、この物語はしんのすけがいないと成立しないということを証明する作品でしたね。
この実写リメイク作品は。
以前、実写化のニュース記事に、下記の文面を書きました。
「ネタバレになるからあまり書けないんだけど、
あのノラリクラリしていて、普段はおバカでお下品なしんのすけが、
又兵衛と廉姫たちの恋を目の当たりにして、ストレートな感情を露わにするからこそ、
見る者の心に強く響くわけでして・・・」
まさにこれでした。
自分は又兵衛と廉姫に泣かされたのではなく、
しんのすけに泣かされたんだって。
だからこそ、『アッパレ！戦国大合戦』は、
数多あるチンケな“お涙頂戴映画”とは、一線を画しているのさ。
しんのすけの代わりとして『BALLAD 名もなき恋の歌』に登場する川上真一くんは、
残念ながら普通の男の子。
“ケツだけ星人ぶりぶり”も“ぞうさん”もやらない。
女の子の友達がいじめられているのを助けてあげられない意気地無し、
というような話がちょっとはあるんだけど、これが機能しているとは思えない。
（これは、同じく原恵一監督の大傑作『河童のクゥと夏休み』から頂いたエピソードに違いない）
真一のキャラクターをもっともっと掘り下げるなり、
しんのすけとまでは行かないまでも、
もう少しアクの強い個性的なキャラ設定にしないとダメだ。
それは真一の両親である川上暁と美佐子も同様。
「クレヨンしんちゃん」の場合、
キャラクターたちの設定は原作や通常のアニメである程度認知されているから、
映画の中でわざわざ詳しく説明する必要はない。
だからこそリメイク版は、そのキャラクター設定を捨てたのなら、
川上一家の性格なり夫婦の力関係、親子の関係性をしっかり描かないと。
真一同様、普通すぎちゃって、何にも面白くない。
それから山崎貴監督は、『アッパレ！戦国大合戦』を見て、
「戦国時代の戦い方の描写に感銘を受けた。そこを実写でやってみたい」と力説していた。
『アッパレ！戦国大合戦』がそうであったように、
本作は当時の戦い方を忠実に再現しているという。
そこにこだわったのは良いんだけど、
それが実写映画の合戦シーンを面白くするかというと、そうではないんだな。
ルールに則り戦うからか、いまいち白熱しない。
槍で頭をぽかぽか叩いたりというのはあんまり映画的じゃない。
城の塀にハシゴかけてそこを登ってくる敵。
ハシゴを外す隙が十分あるにも関わらず外さない。
これも当時の戦いのルールなの？って。
死ぬか生きるかの瀬戸際のはずなのに、
合戦シーンにまるで迫力がない。
敵は多勢というが、そんなに多く感じない。
元々山崎貴監督はCG屋さんなんだから、
割り切ってもっと兵士をCGで増やしちゃえば良かったのに。
それから又兵衛演じる草��剛がみせる殺陣のいくつかは、
ワンカットで撮っていて、頑張ってはいる。
でも頑張っているという範疇から抜け出せていない。
つまりあんまり凄いとは思えない。
決まった型通りに動いてます！ってな感じがしてしまう。
実際の一騎打ちがそうだったのかもしれないけど、
早く動くには限界があるから、なんだか“のぺ〜”となってしまう。
あまりカットを割りたくないという気持ちはわかる。
でもそれはジェット・リーとかジャッキーの様な、
本当に出来る人たちがやるからこそ映えるんだよね。
ここはもう少しカットを割ってテンポを作り、
草��くんたちのアクションを助けてあげた方が良かったように思う。
そんなんだから暁が言う「あいつ、つえぇ」というセリフも、
ギャグと化してしまう。
このセリフはオリジナル版にもあるけど、
ちゃんと強く見えるような描写になっているから、
このセリフに説得力が出てくる。
で、合戦シーンで一番ダメなのは、川上一家がまるで活躍しないこと。
だだ車を走らせただけ。
しかもこれまた全く迫力がない。
この川上一家が活躍できない理由は、
キャラクター造形が出来ていないからというのもある。
『アッパレ！戦国大合戦』で、
ひろしは大いに葛藤し、しんのすけに鼓舞されようやく助太刀する。
それは家族を危険な目に遭わせたくないという夫・父としての務めと、
友人を助けてあげたいという男としての気持ちの葛藤だ。
ひろしにはそういった男気がある。
だからひろしが、立ち上がった瞬間、
見ている側も燃えるし、応援する。
みさえは『アッパレ！戦国大合戦』ではあまり活躍しないんだけど、
ここぞ！という場面で母性本能バリバリ！
ガツーンとかましてくれる。
そして、しんのすけだ。
しんのすけが敵の大将に向けて発する言葉は、
普段のしんのすけを知るからこそ、見る者の心に大いに響くんだ。
一方、川上家はといえば、暁はなんだかはっきりしないし、
美佐子に至っては活躍皆無。
勿論、真一くんもね。
結局、キャラクターが普通過ぎるから、
キャラクターを活かした戦わせ方が出来ないんだよ。
こうやって比較してみると、
野原一家の“らしさ”というエッセンスが散りばめられているから、
『アッパレ！戦国大合戦』で描かれている戦が、
感動的で面白いくなっていることが良くわかる。
そして、本作の肝となる又兵衛と廉姫の恋愛感情も、
もう一歩及ばず。
2人のやり取りは基本的にオリジナル版と変わらない。
なのにグッと来るものがないのは、やっぱりしんのすけというキャラクターの不在が原因だ。
又兵衛と廉姫は、大胆でおバカなしんのすけの言動にかなり影響を受けている。
しんのすけと又兵衛が織り成す会話によって、
又兵衛の廉姫に対する可愛らしいくも誠実な愛情が、見ている側にも伝わってくる。
そして、秘密を共有した又兵衛としんのすけの間には絆が生まれる。
一方の廉姫もしんのすけ（及び野原一家）の「自由人」ぷりに感化される。
最初は姫という立場もあり、又兵衛への恋心を押さえつけているが、
徐々に解放されていく。
そして、廉姫が堪えきれない感情をぶつけたのに、
自制してしまう又兵衛に対して、しんのすけが又兵衛を攻めるシーンがある。
劇中きちんと描写されていないが、
廉姫はその場にいて、この時の又兵衛の困惑っぷりを見ていたはずだ。
これがその後の2人の恋の行方に大きな影響を及ぼしていることは想像に難くない。
合戦シーンが盛り上がらない理由が、野原一家不在であるように、
恋愛パートがいまひとつなのも、しんのすけが不在だからだ。
つまり、しんのすけを筆頭に、野原一家を抜きにして、この物語は成立しないんだ。
土台無理。
それでもなんとか成立させたいのなら、
物語を膨らませるようなキャラクターを作りださないと。
上映時間2時間12分。
オリジナルより40分も増えている。
その40分を当てるべきところに当てていない。
大沢たかお演じる敵の大将・大倉井高虎を肉付けしちゃっている。
オリジナルとはかなり違うキャラクター設定になっているんだけど、
これも成功したとは言えないかな。
オリジナルの高虎は超卑怯者で、これが結構重要だったりするだよね。
あと、波岡一喜らが扮する野武士たちは、自動車を見てもまるで驚かない。
普通、戦国時代の人が鉄の塊である自動車見たら反応するでしょ？
こういう細かい描写への気配りも怠っちゃいけないと思う。
実はオリジナルにも全く同じシーンがあり、野武士は自動車をスルーする。
それでも違和感無く成立しちゃうのは、
「クレヨンしんちゃん」がギャグアニメだからだ。
実写化する際に、ギャグを取り除いたのなら、
違う形で野武士を登場させた方が良いね。
それからオリジナルの冒頭、廉姫は湖の水を飲む。
『BALLAD』では飲まない。
そんでもって、オリジナルにはトキが印象的に登場し、
トキが飛ぶ姿を見たひろしは、驚きのコメントを残す。
『BALLAD』では、トキと思しき鳥のカットがワンカット、
ポンとインサートされている。
なんで廉姫は水を飲むのか？
なんでトキを見てひろしが驚くのか？
原恵一監督信者じゃないと分からないかもしれないけど、
ここには原恵一監督の自然に対する思いが込められている。
これは決して『アッパレ！戦国大合戦』のメインテーマじゃない。
でも自分の訴えをサラリと入れてしまう上手さにも唸る。
山崎監督は、そこまで考えてトキのカットを入れたのかな？
その他、真一の独り言が説明ぽくてダメだね。
真一くんを演じた武井証くんは、
『ぼくとママの黄色い自転車』でも説明ゼリフを言わされていた。
ちょっと可愛そうな役回りですな。
草��くんは、今までのイメージとは違う役柄にチャレンジしながらも、
楽しく演じているように見受けられ、トータル悪くなかったです。
廉姫役の新垣結衣は、
オリジナル版の廉姫のイメージをちゃんと引き継いではいるものの、
いつも眉間に皺寄せているだけの演技なので、
良いのか悪いのかの判断がイマチイできまへんでした。
とにもかくにも、
見ている最中、ずっとオリジナル版を渇望していたね。
「オリジナルが見たい！！」って。
そんな訳で、久しぶりに『アッパレ！戦国大合戦』を自宅で見直した。
酒を飲みながら見たんで、酔いの勢いもあったのかもしれないが、
号泣。
改めて、『アッパレ！戦国大合戦』の素晴らしさを再認識した。
そういった意味では、
『BALLAD』はオリジナル版の良さを引き立てくれる作品なんだな。
オリジナル未見のまま、『BALLAD』を見て失望されて方。
あなたの人生のうちの95分を僕に下さい。
オリジナル版を見れば、必ず救われます。
オリジナル版未見のまま、『BALLAD』を見て感動された方。
あなたの人生のうちの95分を僕に下さい。
オリジナル版を見れば、もっと感動します。
『BALLAD』を見てガッカリしたオリジナル版信者の方。
改めてオリジナル版を見て下さい。
オリジナル版がもっと好きになります。
オリジナル版が好きなうえ、『BALLAD』を見て感動された方。
そんな奴はこの世に存在しないと思う。
実在したのなら、それは突然変異。
X-MENに違いない。
コメント (2)
コメントさせていただくのは２回目になります。
いつも楽しみ・・・どころかＤＶＤ借りる時に非常に参考にさせていただいています(^^;
東京地区だけかもしれませんが、昨日オリジナル版がテレビで放映されてました。ＤＶＤを借りようと思っていましたが、ラッキー！！と鑑賞しました。
いや、ホントおっしゃる通り、すごい作品です。
私は結構涙もろいので、映画製作者の意図したシーンでちゃんと涙する単純な奴なんですが、今回は「ラストの突撃シーンから最後まで」ずーっと涙してました。レンちゃんにもお又のおじさんにもしんのすけにもひろしにも。
こんなに涙が出続けた作品は初めてです。さらに、一緒に見ていた子供は「ずーっと」笑い続けてました。
この２面性というか、作品の奥深さに感動して、黙ってられず書き込みさせていただきました。オススメするだけあります。
今年の夏に子供とポケモンを見たのですが、雲泥の差ですね 。ポケモンの製作サイドに怒りすら覚えました(笑)
投稿者: そすけ | 2009年09月20日 05:29
そすけさん
コメントありがとうございます。
『嵐を呼ぶ モーレツ！オトナ帝国の逆襲』もかなりの完成度なので、機会があったら是非ご覧になってください。
個人的には『オトナ帝国』の方が好きです。
また、『オトナ』『戦国』の後に原恵一監督が手掛けた『河童のクゥと夏休み』も必見の作品です。
投稿者: 伊藤Ｐ | 2009年09月25日 20:08