2011年07月15日更新

#599 『コクリコ坂から』


コクリコ坂から

『コクリコ坂から』


7/16より全国にて
配給会社:東宝
(C)2011 高橋千鶴・佐山哲郎・ GNDHDDT




1963年の横浜。


港の見える丘にある下宿屋コクリコ荘を切り盛りする16才の少女・海は、
毎朝、海に向かって「安全な航行を祈る」という意味の信号旗をあげる。


タグボートで通学している17才の少年・俊は、
その旗をいつも見ていた。


翌年に東京オリンピックを控え、人々は古いものを壊し、
新しいものを作ろうという機運が高まっていたため、
海と俊の通う高校でも、
老朽化した文化部部室の建物「カルチェラタン」の取り壊し計画が持ち上がる。


海は「カルチェラタン」を守ろうと訴える俊に、
その建物の良さを知ってもらうおうと大掃除を提案する。


徐々に惹かれあう海と俊だったが、
ある一枚の写真をきっかけに俊は、よそよそしくなっていく。


日本が誇るスタジオジブリの最新作で、
『ゲド戦記』に続き、宮崎駿の息子である宮崎吾朗が監督を務めている。


『ゲド戦記』は見ていないんだけど(ジブリ作品では『火垂れの墓』と『ゲド戦記』だけ見ていない)、
あまり良い評判を聞かなかったし、
監督の人選で宮崎駿と鈴木敏夫プロデューサーの間で意見の相違があり、
しかも、初号試写で見ていた宮崎駿監督が、
途中で席を立って出て行った(また戻って来た)という話も聞いた。


でも、『コクリコ坂から』の上映前、配給会社の東宝の方が挨拶をした際に、
「今回、宮崎駿監督は、最後まで席を立たずに見た」と言っていた。


良いか悪いかは別として、父ちゃんが認めたか!
ということで、少し期待値が上がった。


しかしながら、オイラは見ている最中、席を立ちたくなったとまでは言わないが、
「早く終んないかなぁ〜」って何度か思ったのは、否定できない事実だったりする。


『コクリコ坂から』には、
心躍るような冒険もファンタジーもアクションも残念ながらなかった。


ジブリにとって、新しいアプローチの作品なのかもしれないけど、
個人的には、壮大なスケールで描かれる唯一無二の世界観と、
躍動感ある動きをどうしてもジブリ作品には求めてしまう。


本作に比較的近いジブリ作品として、
『耳をすませば』や『おもいでぽろぽろ』が思い浮かぶが、
主人公がファンタジー好きだったり、空を飛んだりと、
そこかしこにファンタジー的要素があったと記憶している。
(良く覚えていないが、『おもいでぽろぽろ』はラスト感動して泣いたはず)


『コクリコ坂から』は、ジブリ作品の中でも、最も「日常」を描いている。


それも48年も前の日常を。


多分、今、1963年が舞台の映画を実写で撮るとなると、
かなり無理があるでしょう。


『コクリコ坂から』の舞台となる横浜の町並みは、
当然のごとく様変わりしている。


『ALWAYS 三丁目の夕日』みたいに、CGを使わざる負えず、
完全なる再現は不可能に近い。


よって、昭和の町並み、時代感をアニメで表現するという点においては、
アニメである必然性があるのかもしれないし、
その部分は本当に素晴らしくて、成功していると思う。


でも、やっぱりジブリの動きがないのは、寂しいのだ。


『崖の上のポニョ』とか、あんまり好きな作品じゃないけど、
ポニョが波の上を駆け抜けるシーンとか、「おぉ!!スゲェ〜!!」って思った。


宮崎駿監督のイマジネーションに脱帽した。


『コクリコ坂から』では、「カルチェラタン」の内部や、
海と俊がコクリコ坂を自転車で駆け下りるシーンは少し楽しげだが、
これだけじゃ物足りない。


こうなってしまった理由の一つは、
リアリティに重きをおいた物語にもあると思う。


海と俊という2人の高校生の淡い恋心を通して、
人を愛するということ、
さらには戦争に絡んだ2人のルーツにまで言及していく。


海と俊の恋愛自体は、初々しくて悪くないんだけど、
40代にあと少しで手が届きそうな不純だらけのオッサンに、
昭和の純愛を見て何か響けと言われましても・・・。


2人のルーツに関しては、
「そういう時代だった」という感じでしょうか。


実は、わたくし伊藤Pの母が、全く同じシチュエーションというわけではないが、
同じような境遇だったりする。
(それは子である私自身にとっても、全く無関係な話ではない)


母は昭和19年生まれなので、1963年の時は19才。
海や俊よりは少し年上だが、ほぼ同世代。


母が本作を見たら、どう感じるのだろうか?


『ココリコ坂から』で描かれているのは、
戦後の日本が完全なる復興を果たそうとしている時代。


猪突猛進、高度成長期であり、
みんなが新しいものを求めていて、
戦後の苦しみから解放されようとしていた。


でも、その勢いは、
第二次世界大戦での日本の敗戦があったからこそだ。


更に、今の時代も日本の敗戦のうえに成り立っている。


発展を遂げるのは良いが、時には過去を振り返って、
今の時代がどうしてこういう時代になったのか?
ということを認識し、改めて検証する必要があるんでないの?って。


そういった意味では、
震災後の日本において、タイムリーな作品ではある。


たまたまそうなっただけなのかもしれないが、
そんな宮崎親子(主に宮崎駿)からのメッセージを、
映画全体からはもちろんのこと、
特に2人のルーツのエピソードから感じた取った。


がっ!しかし!


それはそれで良いから、
もっとエンターテイメントの中で描いて欲しい。


クライマックスはどこですか!!!って。


山場がない。


これじゃ、ちょっと退屈ですよ・・・。


昭和の時代を生きた世代だけど、
1963年には生まれておらず、
ノスタルジーを感じることもちょっと出来なかった。


きっと団塊の世代の方ならば、
ビンビンに響くのでしょう。


逆に言うと、団塊の世代以下の年代は?って。
置き去り?


ジブリということで、
子供も「コクリコがみたい!」って言うかもしれないが、
もしも身近にそう言っている子がいたら、
絶対に勧めない。


「ピカチュウにしなさい」


ひとつ前の『借りぐらしのアリエッティ』も、
ジブリ作品にしては世界観が小さいなと感じたが、
『コクリコ坂から』は更にちっちゃくなってしまった。


これはこれでありなのかもしれないが、
次回作では、ジブリならではの、アニメならではの作品を期待したいです。


いっそのこと宮崎駿を抜きで、
企画・脚本・監督と、何から何まで若手に託してしまっては?


あまりピンとこない作品でしたが、
マスコミ試写で上映終了後、
場内から自発的に拍手が起きていたことも記しておきます。


そして、最後に一言。
主人公の海が、「海」って呼ばれたり、「メル」って呼ばれたりするので、
ちょっと混乱した。


「メルって何?」


鑑賞後調べたら、「海」はフランス語で「メル」というらしい。


こういうのは、
映画の中で説明してください。


【追記】
この文章を書いた後、7月14日(木)に放送されたNTV「NEWS ZERO」の特集で、
宮崎駿のインタビューを見た。


酒を飲みながらボケェ〜と見ていたので、
ちゃんとコメントの内容を拾えているか不安だが、


東京オリンピックで日本が変わってしまった。
いまの若者は、ずっと日本はこのままだと思っている。


就活に成功した、失敗したという目の前のことしか考えていない。
自分で旗を立ててやるんだという気持ちがない。


インターネットで遊んでばかりいる。
努力をしない。


そんなような内容だったと思う。


『コクリコ坂から』を見て、ここまでのメッセージを読み取ることができる人が、
果たしてどれだけいるのだろうか?


海や俊が一生懸命努力していることは、『カルチェラタン』を守ること。


これと就活やインターネットをどうやって結びつければ良いのか・・・。


日本の経済状況が良くない上に、3月11日の震災で、
就職難にますます拍車がかかっている。


そんな過酷な状況下で、
努力をしているのに、就職できない学生たちがたくさんいる。


自分達で旗を立てるにも、大学卒業していきなり起業できる人なんて、
かなり恵まれている一握りの人たちでしょう。


今と48年前とでは、日本だけでなく世界情勢が全然違う。


48年前と同じことなんて出来るわけない。


それが時代の流れなんだと思う。
時は流れているものなんだから、止めることなんて出来やしない。


昔のことを今の時代に当てはめるのはいいけど、
それで説教されても・・・。


ましてや、こういう世の中を作ってきたのはどの世代ですか?って。


少し反発心を抱いてしまった。

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コメント (1)

熱:

たまたまその放送を私も見ていたのですが
若者に夢が無いとか言っておいて息子に監督やらせるとか世襲で利権を固定して何言ってるのと
伊藤Pとはちょっと違った方向ですが反発心を抱きましたね

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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