2011年11月10日更新

#633 『恋の罪』

恋の罪


『恋の罪』
2011年11月12日よりテアトル新宿ほか全国にて
配給:日活
©2011「恋の罪」製作委員会


『冷たい熱帯魚』に続き、実際に起きた事件をモチーフにした園子温監督最新作。


その事件とは、90年代に渋谷区円山町で実際に起きたエリートOL殺人事件。
って書いたらどの事件かすぐにわかりますよね。


多くの人たちの記憶に強く残る事件ですが、
『冷たい熱帯魚』同様、園子温監督のアプローチは、“実録モノ”ではない。


事件当時、エリートOLがなんで夜の街で立ちんぼをしていたのか?という謎が、
かなりクローズアップされたが、当事者が殺害されてしまったので、その真相はわからぬままだ。


園子温監督はそこに着目。
3人の女性を登場させ、三者三様の“欲求”“業”を描き、
トータルして、“女性”を追求。
そして、“殺害されたエリートOLの深層心理は、多分こんな感じだったんじゃないの?”
という結論を導き出している。


しかしながら、本作を見ると実際の事件がどうのこうのという話は、
正直どうでも良くなる。


刑事という仕事と幸せな家庭を持っているのにも関わらず、
愛人との関係を立てないでいる和子。


恋の罪


大学の助教授という社会的な地位がありながらも、
夜の渋谷、円山町で体を売る美津子。


恋の罪


売れっ子小説家の貞淑な妻だったが、
やがて自身の奥底の潜むある感情に目覚めるいずみ。


恋の罪


この3人の女性の運命が、ある殺人事件をきっかけに交錯し、
次第に女性の本質的な部分が浮き彫りになっていく。


観客を先導する役割を担っている水野美紀扮する和子は、
浮気をしてはいるものの、ある程度の理性を保っていて大人し目だが、
冨樫真と神楽坂恵がそれぞれ演じた美津子といずみが、かなり凄まじい。


恋の罪


美津子の昼と夜との激しい落差、そして、やがて現す本性に度肝を抜かれた。


いずみも新たな世界へと飛び込んだ前と後との変貌ぶりに、ただただ驚くばかり。


彼女たちが行く着く先に圧倒され、
実際に起きた事件という要素がぶっ飛んでしまうのだ。


正直、この2人が取る言動は、理解不能なところがあった。
が、しかし、理解しなくてもいいんじゃないか?って思った。


だって、男が女性のことを理解できるわけがないもん。
逆に理解できたら気持ちが悪いし、分らない方が良い場合もあるでしょう。


園子温監督もインタビューした時に、
「男が女性を理解しようとすること自体、無理がある」と言っていた。


一方、本作を見た女性の感想はどうかというと、
園子温監督や水野美紀さん曰く「共感してくれている」とのこと。


実際には美津子やいずみのような極端な行動には出ないが、
彼女たちが抱えているコンプレックスや欲求は理解できるってことなんでしょうけど、
男だって例え仕事が成功していたとしても、虚無感に駆られることはあるだろうし、
自分の存在意義を疑問に思ったり、
殻を破りたい、何かをしたい、しなければならないと思うことだってあるでしょう。


なので美津子やいずみの気持ちが、全く分らないわけではない。


でも男性が向かうベクトルは、この作品で描かれた女性とは違うと思う。
男からすると、なんでそっちにいっちゃうの!?って。


で、これこそが、園子温監督が男性に対して本作に込めた“狙い”だったのではないだろうか?
男性は、理解できないものを怖いと思うからね。


でもって、男性を恐怖に陥れる女性たちを演じた女優陣の熱演がまた凄い。


水野美紀は、役柄上、そこまで激しいシーンはないが、
ド頭の濡れ場と廃墟での自慰行為など、今までのイメージからの脱却を試みており、
それは成功していると思うし、
また抑え気味の演技が、逆に和子の心境を良く表しているように感じた。


恋の罪


対照的なのが冨樫真と神楽坂恵。
その凄さは見てもらうのが一番だと思うので、ここではイチイチ書きません。


女優にここまでやらせる映画監督は、昨今、いません。
とだけ述べておきましょう。


役者の芝居をとことん撮るのが、園子温監督が映画作りで最も大切にしていることなので、
まさに“らしさ”炸裂といったところでしょうか?


恋の罪


園子温監督らしさといえば、『冷たい熱帯魚』の殺戮シーンで笑いが起きたように、
冨樫真や神楽坂恵が、凄い形相で凄いセリフを吐く度に笑いが発生していた。
「本人は真剣だが、傍から見たら滑稽」というブラックユーモアがそこかしこにあった。


『冷たい熱帯魚』以上にやり過ぎなところもあって、
時たま「園子温だったらなんでも許されるのか?」という疑問がもたげたりもしたんだが、

それでも結局「園子温だから・・・」という風に思えてしまうのは、
園子温監督だからなせる技なのでしょう。


エロ、暴力、犯罪、人間の暗部、女性の業などを絶妙なユーモアで包み込み、
とんでもない題材をきちんとまとめて一本のエンターテイメント作品に仕上げる。
園子温監督は流石です。


余談ですが、『恋の罪』のマスコミ試写会は、映画美学校試写室で開催されていた。
この映画美学校があるのが、円山町。


円山町で起きた事件を元にした映画を円山町の試写室で見る。
なんだか変な気持ちになりました。


更に、渋谷の雑踏を避け、神泉駅から帰ることにしたので、
あの事件があったアパートの前を通りました。


今から14年も前に起きた事件なのに、
未だにアパートが残っているのも凄いですね。


恋の罪
※この写真は『恋の罪』の場面写真ではありません


「エンタメ〜テレ 最新映画ナビ」特集『恋の罪』
園子温監督、水野美紀、冨樫真&神楽坂恵インタビュー(by 伊藤P)
これを読めば男も少しは『恋の罪』の女性たちを理解できるかも!?
特集『恋の罪』

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コメント (1)

ぶちょ:

みたい!

園監督の映画、実はまだ1作もみてませんが。

水野美紀、冨樫真の迫真の演技、展開が楽しみですわ。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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