2013年02月28日更新

#692 『ジャンゴ 繋がれざる者』

ジャンゴ


『ジャンゴ 繋がれざる者』
2013年3月1日より丸の内ピカデリーほか全国にて
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


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1958年アメリカ。
黒人奴隷だったジャンゴは、賞金稼ぎのドイツ人キング・シュルツ医師と出会う。


ジャンゴはシュルツの相棒として、かつて自分を虐げた悪党を殺害しながら腕を磨いていく。


そして、奴隷同士ゆえに引き裂かれてしまった妻を取り返すために、
ジャンゴは暴君カルビン・キャンディが君臨するキャンディ・ランドへ乗り込むことを決意する。


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1991年の『レザボア・ドッグス』から早20年以上。
かつてハリウッドの異端児と呼ばれていたクエンティン・タランティーノは、今や巨匠の領域だ。


前作『イングロリアス・バスターズ』と本作で、
クリストフ・ヴァルツにアカデミー助演男優賞をもたらし、
自身も脚本賞でオスカーを手にした。


レンタルビデオ店に勤務し、ジャンル映画を浴びるほど見たタランティーノは、
そのルーツを自身の作品にぶち込んできた。


一歩間違えるとパクリになるところを、
絶妙な匙加減と天才的な感性で作品を己のものにしてしまう。


『ジャンゴ 繋がれざる者』は、タランティーノにとって初の西部劇だが、
天才児の手にかかれば「お初」なんて関係ない。


今回も大好物のスパゲッティ・ウエスタン(マカロニ・ウエスタン)に味付けを施し、
タランティーノにしか作れない作品に仕上げている。


大量のセリフ責め、ハチャメチャなバイオレンス、
抜群な選曲センスとタランティーノ節を炸裂させているが、
今までのタランティーノにはない要素も取り入れているのがミソで、
アメリカ南部の奴隷制度に真っ向から向き合い、社会派の一面も覗かせる。


でも社会派は部分的でしかなく、
器はあくまでもエンターテイメント。


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また、ジャンゴとその妻の絆が物語の根幹にある。
タランティーノにとって、初のラブ・ストーリーともいえる。


あと、アメリカの雄大さを感じさせる美しいショットが随所にあった。
この辺も新たな一面でしょう。


自分の好きなものを取り入れながら、自分のオリジナリティを加え、
さらに新たなジャンルにトライし、見事に自分流に調理してしまう。


すごい監督ですわ・・・。


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丁度、本作を見た直後に、樋口毅宏の小説「さらば雑司ヶ谷」を読んだ。


荒唐無稽で、無茶苦茶で、バイオレンス山盛りで、
スパッと気持ちいいぐらい人が死んでいく。


タランティーノ作品からの影響が露骨に出ているなぁ〜と思っていたら、
巻末に「インスパイアされた人」としてタラの名が堂々と明記されていた。


タランティーノは、かつて自分の感性を磨いた作品群から影響を受け、
自身の作品に取り入れてきたわけだが、
今や逆にタランティーノがクリエイターたちに多大なる影響を与え、
取り入れられる立場になっている。


やっぱりすごい監督ですわ・・・。


そして、役者の新たな魅力を引き出すのも巨匠たるもの。


今回は、レオナルド・ディカプリオに残虐なカルビンを演じさせ、
新境地を開拓させている。


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タランティーノ作品の常連も黙っちゃいない。
サミュエル・L・ジャクソンとか最高ですよ。


タランティーノ自身も超オイシイ役で登場しているし、
先述の通り、二度目のアカデミー賞を獲得したクリストフ・ヴァルツも良い。


主役のジェイミー・フォックスの存在感が薄れてしまうぐらい、
強烈な役者たちが脇を固めている。


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先日、キルスティン・ダンストのインタビューを読んだんだけど、
「タランティーノと仕事がしたい。彼のためだったら何でもするわ」と語っていた。


やっぱりすごい監督ですわ・・・。


しかしながらタランティーノの作品は、
『ジャッキー・ブラウン』、『キル・ビル Vol.1』、『キル・ビル Vol.2』、
『デス・プルーフ in グラインドハウス』、『イングロリアス・バスターズ』と、
そのほとんどが日本ではコケている。


『ジャンゴ 繋がれざる者』は、日本人に馴染みが薄いウエスタンだし、2時間45分と長尺だ。


ジェイミー・フォックスとクリストフ・ヴァルツは、
ここ日本で集客力のある俳優かと言えばノーでしょう。
全国区の知名度を持つディカプリオでさえ、このところヒット作がない。


日本の映画市場を見ると洋画のパワーも落ちている。


タランティーノの日本での過去の実績や『ジャンゴ 繋がれざる者』の内容、
そして、世の中の傾向からすると、ヒットする要素があまりない。


やや厳しい興行が予測されるのですが、『ジャンゴ 繋がれざる者』は、
タランティーノのすごさを嫌というほど感じさせてくれる痛快作だし、
タランティーノのことを知らなくても、十分に楽しめる娯楽作品だ。


アメリカでは、評価も高く、タランティーノ作品で最高のヒットを記録している。


多くの日本人に見てもらいたい。


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日本のみなさん、ボクの映画を見てください!!


因みに本作のアイディアは、日本で生まれたという。


タランティーノが『イングロリアス・バスターズ』で来日した際に、
マカロニ・ウエスタンのサントラを買い漁り、宿泊先のホテルで聴いていたら、
本作のアイディアが浮かんできて、思いつくままにホテルの便箋に書きなぐったとのこと。


冒頭のシーンは、3年前に東京で書いた当時のものが、
ほぼそのまま採用されているという。


『ジャンゴ 繋がれざる者』は、ほんの少しだけ“made in Japan”なのです。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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