2017年02月08日更新

「無貌の神」(恒川光太郎)

2017年1月28日に中学時代の同級生の恒川光太郎が、
新作「無貌の神」を出版した。


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前作「ヘブンメイカー スタープレイヤーII」から約1年ぶりの新著。
しかも「私はフーイー」(2012年)以来となるダークファンジー短編集。


恒川光太郎が最も得意とし、
またファンが一番待ち望んでいるであろうジャンルなので、
まさに待望の一冊とったところか。


収録作品は全て怪談専門誌「幽」に掲載された作品なので、
中には全部既読という熱心なファンがいるかもしれない。


【収録作品】
「無貌の神」
「青天狗の乱」
「死神と旅する女」
「十二月の悪魔」
「廃墟団地の風人」
「カイムルとラートリー」


表題作「無貌の神」は、
冒頭から「あぁ、恒川光太郎といえばこれだよねぇ」というテイストで、
掴みはOK。


現世界と繋がっているようだけれど、
異世界という恒川ワールド炸裂。


なんとなく今の日本の閉塞感を現した作品のような気がした。


「青天狗の乱」は、幕末のお話。


数ページ読むとタイトルからなんとなく話の展開が読める。


実際にその通りだったんだが、
「そういう視点もあるのか!?」という仮説が用意されており、
してやられて感が否めません。


「死神と旅する女」はかなり独創的で行先不明な作品。
このような物語を考え付くのが凄い。


完全なる空想の世界なのに、リアリティがある。


個人的には収録作品のなかで、一番秀逸で驚きに満ちていた。


「十二月の悪魔」は、SF色が強いかな。


あなたたちは管理されてました的な映画、
『華氏451』、『未来世紀ブラジル』、『マトリックス』などを思い出した。





「廃墟団地の風人」は、異色の友情物語。


ファンタジーは、ルール無用の何でもありをやろうと思えば出来るが、
ちゃんと整合性が取れているのが、恒川光太郎作品の魅力。


それから恒川光太郎は、「竜が最後に帰る場所」収録の「迷走のオルネラ」や、
先の「死神と旅する女」、そして、本作など、
(家庭内)暴力の要素を入れる作品が、ちょいちょいある。


以前、ノンフィクション「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」(著:豊田正義)を
恒川光太郎に薦めたところ、「読まなきゃよかった」と言っていた。


暴力が作品のテーマの一部となるのは、弱者への暴力に対する嫌悪感の現れか。


SNSの発達や社会そのものの成熟によって、
昔よりも家庭内暴力が露見し易くなっているのかもしれないが、
以前に比べてその手の事件が多くなっているような気がしてならない。


そんな日本の現状を憂いているのかもしれない。


で、ここまで書いて、「無貌の顔」に収録されている作品の共通点が、
“暴力”や“支配”に対する“怒り”、“抵抗”であることに気が付いた。


ラストを飾る獣が主人公の「カイムルとラートリー」もそうだ。


そんなこと筆者はまるで意識していないかもしれないけど…。


短編集はアルバムみたいなところがある。
ファストソングもあれば、ミドルテンポの曲もあればバラードもある。


名盤と言われるアルバムは、
それぞれタイプの違う曲が収められてはいるが、
全体を通して統一感がある。


「無貌の神」は、作品ごとの舞台や時代、タイプが異なる。
しかも、執筆された時期も違う。


にも関わらず、読了後に受ける印象は、長編小説を読んだかのよう。


ごくごく限られた一部の人にしかわからない表現ですが、
恒川光太郎の約4年ぶりの短編集は、ZENOの「ZenologyI、II」的な名盤でした。



未発表曲集なのに、超名盤!

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コメント (5)

鹿谷:

こんにちは。
恒川光太郎さんのファンの者ですが、恒川光太郎さんのブログがなくなっています。
何か理由をご存じないでしょうか?
時々読んでいたので気になってしまい…。
同級生とのことなので、何か知っているかと思いましてコメントさせていただきました。

伊藤P:

鹿谷さん
コメントありがとうございます。

3月に恒川くんと一緒に千葉の鋸山へ行ってきました。

その時既にブログがなくなっていたので、
私も気になり本人にわけを聞いてみたら、
「リニューアルしようといじっていたら、誤って全部消してしまい、
 がっかりしてブログをやる気をなくしてしまった」
とのことでした。

恒川くんには早速、鹿谷さんからのコメントの内容を伝えました。
本人がやる気を出して、再開してくれることに期待しましょう!

そして、新刊も期待しましょう!
早く読みたいですね!


鹿谷:

伊藤Pさん

ご返信ありがとうございます。
そういう事情があったのですね^^;
お伝えいただいたようでありがとうございます。また開設されたら拝見したいと思います。

新刊も楽しみに待ちたいと思います。
個人的には、スタープレイヤーの第三弾が読みたいです^_^

きりん:

カリフォルニアの砂漠の中に住んでいる者です。 私もかなりの恒川ワールドのファンでして恒川さんの本は全て海外発送をしてもらっております。5歳の息子に恒川さんの絵本を読み聞かせをしたら怯えていましたが^^;   
ウタラインを時々のぞきに行くのが楽しみでしたが閉鎖されてからずっと寂しく思っておりましたので閉鎖理由を知りホッといたしました。伊藤Pさんに感謝です!!

伊藤P:

きりんさん

半年以上前にコメント頂きながら、
リアクションせず申し訳ございませんでした。

恒川ブログ、私も復活して欲しいなぁって思います。
ブログでなくてtwitterでもよいから何か発信して欲しいですよね。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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