2010年07月13日更新

#501 『借りぐらしのアリエッティ』


借りぐらしのアリエッティ

『借りぐらしのアリエッティ』

7/17より全国にて
配給会社:東宝
(C) 2010 GNDHDDTW




『崖の上のポニョ』以来2年ぶりとなるスタジオジブリ最新作。
宮崎駿監督は企画・脚本のみで、新人の米林宏昌が監督を務めている。


ジブリは宮崎駿監督の後継者探しにかなり早い段階から着手して来たが、
有力視されていた『耳をすませば』(95)の近藤喜文監督は、
1998年に47歳の若さでこの世を去ってしまった。


その後、ジブリに招かれた片渕須直(『マイマイ新子と千年の魔法』)や、
細田守(『サマーウォーズ』)は、
結局、一本も監督作を残すことはなかった。


『ゲド戦記』(06)で宮崎駿監督の息子、宮崎吾朗が監督に抜擢されるも、
この起用について、鈴木敏夫プロデューサーと宮崎駿監督が対立。
宮崎駿監督は、『ゲド戦記』に関して苦言を呈していた。


このように後継者探しが、なかなか思うように事が上手く運ばなかった。


借りぐらしのアリエッティ


そして、今回、遂にジブリが後継者探しに本腰を入れた。


『借りぐらしのアリエッティ』の米林宏昌監督は、
『崖の上のポニョ』で重要なシーンを任せるられるなど、
ジブリで一番上手いアニメーターとして、
宮崎駿監督や鈴木敏夫プロデューサーから絶大なる信頼を得ており、
若干37歳にして本作の監督に大抜擢された。


米林宏昌監督はかなりのプレッシャーがあったと思うが、
完成した作品を見た宮崎駿監督は大絶賛しており、見事にその期待に応えた。


『借りぐらしのアリエッティ』の企画・脚本は宮崎駿なので、
宮崎駿監督の影響力はかなり強かったと推測される。


見れば確かに宮崎駿監督の作風に近しい作りとなっており、
ジブリの枠内に手堅く収めたという感じ。


米林宏昌監督は初監督だから、まだどんなカラーを持った人物かわからないけど、
いきなり大幅にガラリと改革するよりは、
徐々にシフトしていった方が、ファンや観客も受け入れ易いと思うので、
まずはこんな感じの緩やかさで良いのではないでしょうか。


借りぐらしのアリエッティ


さて、『借りぐらしのアリエッティ』ですが、
宮崎駿監督作品と比較するつもりはないけど、、
宮崎駿監督の特徴である疾走感溢れるシーンや空を飛ぶシーンがない。


全体的にマッタリしていて、あまり躍動感はないが、
個人的にはこのゆったり感がとても心地よかった。


あと宮崎駿監督作品にはちょっと説教臭いところがある。


本作にも人間の思い上がりや滅びゆく生命に対する慈しみ、
種の相互理解と共存、自然に対する感謝の念など、
ジブリらしい様々な主張が見受けられる。


しかしながら、あまり声高らかに掲げている感じはしない。
このアッサリしたところがまたよい。


これらのテーマは、
物語の基盤となるアリエッティと大きな手術が控える少年・翔の交流の中に散りばめられている。
この二人のやり取りがなかなか秀逸だった。


お互いがお互いを理解しようとし、勇気付け、成長を促し、助けあい、
生きていくうえで何が大切かを学んでいく。


アリエッティと翔が織り成すラストシーンで、結構感動してしまった。


借りぐらしのアリエッティ


アリエッティの好奇心旺盛で、向こう見ずなんだが、
心優しくて両親思いなキャラクターには、とても好感が持てた。


床下に暮らす小人たちから見た世の中という視点も面白いし、
あまり多いとは言えないキャラクターたちが、
それぞれの役目をキチンと果たしているのも良い。


『千と千尋の神隠し』(01)以降のジブリ作品は、
あまり好きじゃなかったけど、本作は気に入りました。


次回作では、宮崎駿監督カラーを排しながら、
米林宏昌流のジブリ作品を作り上げて欲しい。


アリエッティ


しかし、今年は贅沢な夏だね。


ピクサーの『トイ・ストーリー3』があって、
ジブリの『借りぐらしのアリエッティ』があって、
(個人的には興味ないけど)定番の「ピカチュウ」もある。


更には原恵一監督の『カラフル』まである。


見ていないが、『宇宙ステーションへようこそ』も好評&好調らしい。
アニメがいい感じです。

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コメント (3)

ippo:

>あと宮崎駿監督作品にはちょっと説教臭いところがある。

どのタイトルの、どのシーンですか?
抽象的すぎて意味がわかりません。素人のブログなら、こんな子供みたいな感情論でもOKなんでしょうが。

>本作にも人間の思い上がりや滅びゆく生命に対する慈しみ、
>種の相互理解と共存、自然に対する感謝の念など、
>ジブリらしい様々な主張が見受けられる。

残念!
例の唐突な長台詞は、米林監督のオリジナル部分です。

原作も読んでないみたいですね。ものすごく有名な作品ですよ。

業界の方かと思っていましたが、これでは単なる感想文ですね。
でも業界の人間も、こういう感想ブログを記事にしてるヒトが増えてきましたね。
お寒いことです。

伊藤P:

やりあうつもりはありませんが、
私以外のブロガーさんにも指摘が及んでいる様なので、
コメント返させていただきます。


>どのタイトルの、どのシーンですか?
>抽象的すぎて意味がわかりません。素人のブログなら、こんな子供みたいな感情
>論でもOKなんでしょうが。


そうですねぇ、例えば『崖の上のポニョ』。
海底のゴミのシーンとかですかね。
他の方々はどういう印象を受けるのか知りませんが、私はそう思いました。
あくまでも主観です。
また、今後も映画を見る際に“感情”なくして見るつもりはないですし、
見た映画を感情論無しに語ることもないでしょう。


>残念!
>例の唐突な長台詞は、米林監督のオリジナル部分です。


ジブリらしいテーマを内包しているが、
その主張が前面に押し出されていない。
そのアッサリしながらも、ちゃんと印象に残るところが、
本作での米林監督らしさなのでは?
と感じただけのことですけど・・・。


因みにジブリ作品に多く見受けられる(と私は思っている)、
自然に関する様々なテーマには、
(例えそれが説教くさいと感じても)ハッとさせられつつ、
共感を覚えることが多いです。


>原作も読んでないみたいですね。ものすごく有名な作品ですよ。


読んでません。
映画化された原作は全部読まないとダメってこともないでしょうし。
バカ売れしている「告白」さえ読んでないや。


>業界の方かと思っていましたが、これでは単なる感想文ですね。
>でも業界の人間も、こういう感想ブログを記事にしてるヒトが増えてきましたね。
>お寒いことです。


今回の文章が「感想文」かどうかはさておき、
さらにippoさんが「感想文」以外の何を求めているのか、定かではありませんが、
業界の人が「感想文」を書いちゃいけない決まりなんてないでしょう。


「感想文」との比較となると「批評」、「レビュー」あたりなんでしょうが、
「感想文」が「批評」や「レビュー」よりも劣るなんていう決まりもない。
「感想文」だってれっきとした文章だし、書くには表現力も必要でしょう。


まぁ、確かに「感想」「批評」「レビュー」の線引きが、
きちんとこのブログでは成されていないという指摘はちょいちょい受けております。
またその通りだとも思っていますが、実はあまり深く考えてません。
やや開き直りですが、曖昧でもいいかなぁ〜って。
乱暴な言い方かもしれませんが、
自由に書けるののもまた「ブログ」の良さだと思っています。


さて、その「ブログ」。
今の時代、「ブログ」などを利用して、
誰でも様々な「情報配信」をすることが出来ます。
これは世の中の流れです。


数多あるインターネット上の映画に関する文章の中に、
ippoさんのお気に召さないような文章も沢山あるでしょう。
それを「寒い」と思うなら、
ネットで文章なんて読まないで、
「キネマ旬報」とかプロの評論家・ライターさんたちが書いた文章を
読まれた方がいいんじゃないかと思うんですけどね。


あるいはネットで読むにしても、
コレだと決めた、信頼がおけると思う方のサイトのみ読むとかね。


まぁ、私がとやかくいうことじゃありませんが・・・。

プリンス:

唐突にコメントさせて頂き失礼致します。


物事には表裏一体があると思います。

たとえばマイケルジャクソンが好きな人もいれば嫌いな人もいる。

それがあって人間関係がなりたっていると自分は思います。

互いが貶し合うのではなく、認め合うことが前提に大事だと感じました。

ippoさんの意見も素晴らしいですし、

伊藤Pのブログも素晴らしいです。

ネットに介在している無料のコニュニケーションを自分にとって

上手く使う事が何より大事だと思うので、

自分にとってプラスになれるものをチョイスして

行けばいいのではないかと思います。

僕は楽しくブログを拝見させて頂いております。

今後ともお二人のご健勝を祈っております。

失礼いたしました。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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