2008年04月22日更新

#213 『アイム・ノット・ゼア』

数々の名曲を世に生み出した<生ける伝説>ボブ・ディラン。


ミュージシャン、詩人、俳優、監督など、
ボブ・ディランが持つ様々な人格を投影した6つの役柄を、6人の俳優が演じ分けている。
※クリスチャン・ベイルは2役なので、正しくは7人のボブ・ディランだと思うけど、
 資料には6人と書かれている。




アイム・ノット・ゼア
『アイム・ノット・ゼア』
4/26よりシネマライズ、シネカノン有楽町2丁目ほか全国にて
配給会社:ハピネット、デスペラード
(c)2007 VIP Medienfonds 4 GmbH & Co.KG/All photos - Jonathan Wenk




分類としては難解。


6人の俳優がボブ・ディランを時代ごとに演じているけど、時系列はメチャクチャ。
あっちに行ったり、こっちに行ったりする。
こんな内容だとは知らなかったので、少々面食らった。


それでも2時間16分、退屈せずに見れちゃうのは、
ユニークな発想と白黒含めた色彩の豊かさがあるからか?


ポップなところがあって、
60年代のリチャード・レスター監督(ビートルズ映画、『ナック』)ぽい雰囲気。


そして、リチャード・ギア、故ヒース・レジャー、クリスチャン・ベイルなど、
ボブ・ディランを演じた俳優たちの演技に因るところが大きいでしょう。


特にケイト・ブランシェット。
やっぱり凄いわ。


アイム・ノット・ゼア


あと、ボブ・ディランの知識がある程度ないと、難解度が増すと思う。


伊藤Pはボブ・ディランの熱狂的なファンではない。
アルバムを数枚持っているのと、
彼にまつわる有名なエピソードをいくつか知っている程度だ。


知っていることは、そのエピソードが出ればモロにリンクしたんだけど、
それ以外は何かモチーフになる出来事や人物がいたのだろうと勝手に想像した。


脚本と監督を務めたトッド・ヘインズは、元々ディランのファンだった。
ディランの神秘的な側面に興味を持ち本作に取り掛かった。
その際、誇大な資料に目を通し、そこからインスパイアされたものが、
映画に反映されている。


つまり、本作はボブ・ディランを知り尽くしたトッド・ヘインズ監督の中にある、
ボブ・ディランの様々なイメージを映像化している。
あくまでも監督の解釈とイメージなので、ボブ・ディランの全てを、
そして、事実を語る必要がない。フィクションである。


なので、幾らでも飛躍できるし、難解にも出来る。
監督のイメージと歴史的事実と自分の知っているボブ・ディラン像が、
ゴチャゴチャに介在することになるので、訳がわからなくなる。
もちろん、これは監督が狙っていることだ。


ということで、全くボブ・ディランを知らないと、
かなりきついと思われ、最低限の予習として下記、
『アイム・ノット・ゼア』を見る前に押さえておくべきポイントです。


出来事関連
1941 ミネソタ州で生まれる。学生時代にランボーら象徴主義詩人の影響を受ける。 アルチュール(ベン・ウィンショー)
1959 大学卒業後、放浪の旅に出る アルチュール(ベン・ウィンショー)
1961 尊敬するフォーク・シンガーのウディ・ガスリーを見舞うため病院を訪ねる。フォークだけでなく、ロバート・ジョンソンらブルースにも影響を受ける。 アルチュール(ベン・ウィンショー)
1962 『ボブ・ディラン』でデビュー。 ジャック(クリスチャン・ベイル)
1963 社会派フォーク・シンガーとして注目を集め、女性フォーク・シンガーのジョーン・バエズと交流を持つ。 ジャック(クリスチャン・ベイル)
1964 ビートルズのメンバー、特にジョン・レノン、ジョージ・ハリソンと交流を深める。 ジュード(ケイト・ブランシェット)
1965 ニューポート・フォーク・フェスティバルでエレキ・ギターを持って登場、演奏し、大ブーイングを浴びる。ファッション・モデルのサラ・ラウンズと結婚。 ジュード(ケイト・ブランシェット)
1966 マンチェスターでの公演で、観客から「ユダ!(裏切り者)」と罵倒される。   アンディ・ウォーホルのミューズ、イーディ・セジウィックと恋に落ちるも破局。 オートバイ事故に遭う。 ジュード(ケイト・ブランシェット)
1967 死亡説などが流布する。ツアーを追ったドキュメンタリー映画(監督も務める)が公開されるも酷評。『ジャン・ウェズリー・ハーディング』で復帰。 ロビー(ヒース・レジャー)
1973 『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』に出演、音楽を担当。 ビリー(リチャード・ギア)
1977 サラと離婚。 ロビー(ヒース・レジャー)
1979 キリスト教に傾倒し、キリスト教3部作と呼ばれるアルバムを発表。 ジョン牧師(クリスチャン・ベイル)
1983 ここから数十年間、スランプに陥る。 ビリー(リチャード・ギア)



あと、登場する女性ですが、


サラ・ラウンズ≒クレア(シャルロット・ゲンズブール)、
ジョーン・バエス≒アリス・ファビアン(ジュリアン・ムーア)、
イーディ・セジウィック=ココ・リビングストン(ミシェル・ウィリアムズ)、


ということも把握しておいた方が良いでしょう。
(イーディに関しては【伊藤Pの部屋】#210 『ファクトリー・ガール』参照)


傑作『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』の有名なアルバム・ジャケットで、
ボブ・ディランに寄り添っているスージー・ロトロも、
シャルロット・ゲンズブールが演じている。
クレアはサラとスージーが投影されていると思われる。


『アイム・ノット・ゼア』


と、ざっとボブ・ディランをまとめましたが、
それでも本作を全部理解することは困難かな。


リチャード・ギアは監督に、意味が判らないと質問しまくったという。


それでも決してつまらないわけではないので、
是非見て欲しいと思う一本。


“判らなくても良い”を前提に見てみよう。
こういう作品は久しぶりだ。


ヒース・レジャー曰く、
「脚本?全然理解できなかったよ。
 分析などせずに旅を楽しんでほしい。分析は邪魔だ」


そもそも人間なんて誰であっても、
他人の全てを理解なんか出来るわけがない。


人は常に移り往く。
だから捉えどころがない。


「I'M NOT THERE」。






『アイム・ノット・ゼア』
※ヒース・レジャー、トッド・ヘインズ監督 インタビュー 動画

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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